頭部打撃による記憶喪失を実験的に再現
頭部損傷による記憶喪失は、映画やドラマなどでしばしばみられます。
交通事故などで記憶を失ってしまった恋人に、どう接したらいいか葛藤する場面は、切なさを感じさせずにはいられません。
しかし近年の研究により、頭部損傷による記憶喪失は事故のような大イベントによらずとも、身近なスポーツでも発生することが明らかになってきました。
たとえばヘディングを多用するサッカー選手やアメリカンフットボールの選手が試合中に経験する頭部への軽い衝撃も、慢性認知症や記憶障害を引き起こすことがわかってきました。
しかしこのような「脳震盪未満」の衝撃がどのようにして記憶障害を引き起こすのか、そして失われた記憶を回復させることができるのかは、十分にわかっていません。
映画やドラマなどでは、脳を活性化させるような「劇的な場面」で記憶を取り戻すようなシーンが描かれていますが、果たしてそのような手段で記憶回復が起こり得るものなのでしょうか?
そこでジョージタウン大学の研究者たちは、マウスに対して繰り返し頭部に打撃を与える記憶喪失実験を行い、その後マウスの脳を強制的に活性化させることにしました。
今回もまず実験全体を4コマで示しつつ、その後に詳細なメカニズムの紹介を行いたいと思います。
頭部打撃による記憶喪失は回復するのか?
記憶喪失はニューロンの死による取り返しがつかないものなのか?
回復するとしたらそれはどんな手段を使えばいいのか?
謎を解明すべく研究者たちはまず、マウスたちに恐怖記憶の刷り込みを行いました。
マウスたちはまず3分ごとに2秒間の強烈な電気刺激を与える部屋(恐怖条件付けチャンバー)に入れられ、恐怖を記憶させられました。
同じ部屋に再びマウスを入れると、マウスたちは恐怖によって凍り付くフリーズと呼ばれる現象を引き起こします。
人間が恐怖によって動けなくなるように、マウスも恐怖を連想させる部屋をみせられると記憶を呼び起こされ、動けなくなってしまうのです。
次に研究者たちはマウスを2グループにわけ、一方のグループの頭部に対して高頻度頭部衝撃(HFHI)を与えました。
高頻度頭部衝撃(HFHI)は1回1回の打撃は強くありませんが、何度も打撃を繰り返すことで、脳に重大な影響を及ぼします。
(※実験では6日間に渡り合計30回の頭部打撃が行われました)
すると通常のマウスたちは恐怖記憶を呼び起こす部屋(恐怖ハウス)をみせられるとフリーズ反応をみせるものの、頭部打撃を受けたマウスたちは反応が全くなかったり著しく弱いことが示されました。
この結果は頭部打撃を受けたマウスには記憶喪失が起きていることを示しています。
次に研究者たちは、マウスの記憶喪失を回復させられるかを実験しました。