量子もつれは単なる不思議な現象ではない
陽子といえば「3つのクォーク」でできていると教科書的には言われます。
しかし実際は、グルーオンや海クォークが絶えず生まれ消えている、ひどく賑やかな量子世界が詰まっています。
これらは強い力(色荷相互作用)によって互いにぎゅっと結びつき、単独で外へ“飛び出す”ことができません。
こうした「閉じ込め」の仕組みを理論的に見るとき、単に「力が強いから抜け出せない」のではなく、粒子同士が量子もつれによって不可分な波動関数を共有しているという見方がより自然ではないか――というのが、近年注目されている考え方です。
しかし、これまでの研究では高エネルギー散乱実験のデータだけでは、衝突前に陽子内部でどのような量子的絡み合いが起きているかを直接見ることは難しく、さらに多数の粒子が同時にもつれ合う複雑な状態をどう評価するかという理論的課題もありました。
しかし最近では、量子情報科学の発展により、たくさんの粒子同士のもつれ具合を数値で測る(エンタングルメントエントロピー)技術が整ってきました。
さらに、衝突実験の精度や規模も大きく向上したため、それまで難しかった「陽子の中のもつれ」を実際の実験データから確かめられるようになってきたのです。
そこで今回、国際的な研究チームは、陽子内部のクォークやグルーオンといった素粒子たちがどれくらい深く量子的に絡み合っているかを新しい視点で探ることにしました。