量子もつれは全てを支えている:陽子内部に強い「量子もつれ」を発見!
量子もつれは全てを支えている:陽子内部に強い「量子もつれ」を発見! / Credit:Canva
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量子もつれは全てを支えている:陽子内部に強い「量子もつれ」を発見! (2/2)

2025.01.25 17:00:30 Saturday

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量子もつれは私たちを作る物質を支えている

量子もつれは全てを支えている:陽子内部に強い「量子もつれ」を発見!
量子もつれは全てを支えている:陽子内部に強い「量子もつれ」を発見! / Credit:Canva

陽子内部で粒子はどのように絡み合っているのか?

答えを得るため研究者たちは「電子を探り針として陽子にぶつける」高エネルギー散乱実験を行いました。

具体的には、加速器で非常に速く加速した電子を、陽子(標的)に向けて衝突させます。

電子は電荷を持ち、電磁相互作用を通じてクォークとやり取りをするため、陽子の内部構造を“こまかく”探るプローブ(探り針)として最適です。

電子自身はクォークやグルーオンよりも“シンプル”な構造なので、衝突後の分析が比較的わかりやすいという利点もあります。

衝突が起きると、陽子の内部に潜んでいたクォークやグルーオンとの相互作用が発生し、その結果、たくさんのハドロン(新たに生成される中間子やバリオンといった粒子)が飛び出してくるわけです。

研究では、衝突後に飛び出すハドロンの数やどの方向にどのくらいのエネルギーをもって飛び出すかといった「分布パターン」を詳しく測定しました。

粒子検出器は衝突点の周囲を取り囲むように配置されていて、飛んできた粒子の軌跡やエネルギーを高精度で記録します。

これにより、陽子内部にあったクォークやグルーオンがどのくらい“絡み合って”いたかを理論モデルを用いて推定します。

衝突前のクォークやグルーオンの状態を直接見ることはできませんが、それらが「どのようにもつれていたか」という情報が、衝突によるハドロン生成の仕方や分布の“乱雑さ”に反映される、という理論的な予想が近年提唱されています。

もし“もつれ”が弱ければ、衝突後の分布は比較的バラバラになりますが、強いもつれ状態であれば、「飛び散り方の乱雑さ」や「粒子生成数」のパターンが理論計算とピタリ一致する、というわけです。

(※この予測には、量子情報理論でいう「エンタングルメントエントロピー」などの指標が用いられました)

すると、クォークやグルーオンがほぼ最大限にもつれた状態を仮定すると、陽子から飛び出すハドロンの観測データとすんなり符合する――これは、「陽子は単にクォーク3つの寄せ集め」ではなく、「大量の成分が不可分に結びついた一つの量子システム」だという見方を裏付ける大きな発見です。

たとえるなら、たくさんのダンサーが思い思いにステップを踏むのではなく、最初から全員が一体化した振り付けを知っていて、それを息ぴったりに踊っている――そんなイメージに近いでしょう。

もし互いがもつれていなければ、一部だけが飛び出す、あるいはまるで分解してしまうなど、陽子という安定した粒子としての姿は維持できないのかもしれません。

クォークやグルーオンもまた、全体が量子もつれによって統合されているからこそ、陽子という安定した姿を保てるわけです。

そして、この“チーム全体”の動きによって、私たちの体を含む物質が安定して存在できるということは、量子もつれが日常世界の基盤をなしている可能性を強く示唆します。

というのも、私たちの身体や周囲の物質は無数の陽子・中性子によって作られているからです。

つまり、陽子の内部にもつれがなければ、そもそも私たちを構成している物質は今のように安定して存在できない可能性が高いのです。

もつれは特殊で不可解な実験結果ではなく、“物質があるという現象”そのものを支えているわけです。

「量子もつれ」というとSF的なイメージや特殊な実験を想起しがちですが、私たち自身を含むあらゆる物質にも「もつれ」が当たり前のように組み込まれているのです。

今回明らかになった「陽子内部の量子もつれ」を数値的に捉える手法がさらに成熟すれば、核子や原子核、さらには物質のあらゆる安定性をより精密に理解できるようになるでしょう。

今後建設予定の電子イオン衝突型加速器(EIC)などでは、さらに大きな系での核子同士のもつれも探究できるため、高エネルギー物理や核物理学の基盤自体がもつれを中心に再定義される可能性すらあります。

そうなれば、物質観のみならず、量子情報理論や次世代の実験技術にも波及し、私たちの科学の見取り図を大きく変えていくことでしょう。

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量子もつれは全てを支えている:陽子内部に強い「量子もつれ」を発見! (2/2)のコメント

H.I

非常に面白い。
アインシュタインが否定的に見た量子もつれが、実は世界を成り立たせている基盤だったとしたら。ワクワクするような世界の謎解きです。長生きして成り行きを見守りたい。

    原子核

    量子もつれが自然の状態ならば、分子レベルでの「ガン細胞」を見た場合、その原子核(陽子)の構成の
    もつれが乱れている事をさす。正常な波動を与える事でもつれの調和を元に戻す事で治療が可能となる
    未来がが有ると思います。存在する元素の量子もつれパターンを確定できればがん細胞のアミノ酸や蛋白質を
    構成する元素の陽子パターンを正常化できるかも知れない。光子のエネルギーによって。

    オカルト

    癌細胞云々はオカルトですので注意してください

ゲスト

確か波動性の量子もつれもあるとか、ならタイムリープやタイムスリップも可能と言う事になるな。

ショウ

光を超えたワープ もつれを利用して 再構成できたなら 可能性はあるでしょうか? 新しい時代の先駆けになるのでしょうか?

tempo

科学(部分学)が全学に進歩しつつある。真の哲学,真の宗教を解明して真の科学。

    興味深い

    量子もつれを意図的に作るのではなく、自然を利用する考え方ですね!確かに今の状態では一人の人間ををテレポートするだけでも 5.72 × 10^27個ほどの原子をテレポートする必要が出てきてしまいますからね。

tekisetsu

量子テレポート通信技術の開発などでは「どうやって量子もつれを効率よく作るか」が課題だったはずなのに、あらゆる陽子内部に、おそらく中性子内部にも、量子もつれが大量にあるとなったら、話が全く変わってくるな…

Madな存在

物理学の大きな問題である「陽子崩壊」問題の解決に繋がる成果だと思います。
素粒子理論で予言されている陽子の崩壊現象は現代物理学の大問題で、その観測の為に世界中で様々な実験が行われて来ましたが、その解決に繋がる大発見だと思います。
陽子の寿命の有無とその長さが解明出来れば物理学の画期的な進化に繋がる事でしょう。

ゲスト

> すると、クォークやグルーオンがほぼ最大限にもつれた状態を仮定すると、

後の「すると」を「した場合(時)の」などと言い換えた方が読みやすい。
冒頭五段落目六段落目には「しかし」が重複しているなど、他にも読みづらいところがあった。
このライターさんの文章は何度も読んでるけど、今までそんな事はなかったのでお疲れなのかもしれないが出来たら修正されるといいと思う。
意味的には十分伝わった。

初学者

ほぇ~。
それなら構成子クォーク模型がそれなりに正しい描像になっていることが気になりますね。

アシカビヒコ

面白い!素晴らしい!量子もつれが光子や電子などで重要であるだけでなく、核構造の安定性においても非常に重要な役割をはたしているということで、イメージ的に言えば、我々の体はかなり軟体動物だということ。量子情報科学の進展により量子もつれ状態の「情報」を保存、コピー、転送できる可能性がぐっとちかくなったという印象をもちます。

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