量子ダーウィニズムによれば現実も物理法則も自然淘汰で出現する
量子ダーウィニズムによれば現実も物理法則も自然淘汰で出現する / Credit:Canva
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量子ダーウィニズムによれば物理法則は自然淘汰で出現する

2025.06.24 21:00:23 Tuesday

物理法則が「自然淘汰」によって生まれる――そんな一見奇抜なアイデアをご存じでしょうか。

量子力学の分野で提唱されている「量子ダーウィニズム」は、量子のあいまいな世界から私たちのはっきりとした古典的現実が生まれる仕組みを、ダーウィンの進化論になぞらえて説明する理論です。

極微の量子状態では粒子が同時に複数の可能性を持つにもかかわらず、私たちの目の前の世界は一つの安定した現実として存在しています。

また量子世界では物体の位置が定まらないにもかかわらず、現実世界では坂を転がり落ちるボールという現象を運動方程式という古典物理法則が見て取れます。

このギャップを埋める鍵として環境の役割に注目したのが量子ダーウィニズムです。

環境との相互作用で壊されずに残った安定な状態が自然に多数コピーされ広まることで、私たちが見る共通の客観的現実が生み出されるというのです。

しかもこの仕組みは理論上の枠組みにとどまらず、近年の実験によって確かめられつつあります。

今回はそんな量子ダーウィニズムの最前線に迫ります。

量子ダーウィニズムとは何か?

量子ダーウィニズムとは何か?
量子ダーウィニズムとは何か? / Credit:Canva

量子ダーウィニズムとは、「量子の曖昧な状態の中から、環境にとって最も壊れにくい安定した状態だけが生き残り、私たちが見る確かな現実として現れる」というアイデアを表した言葉です。

もう少し簡単に言うと、「環境が量子の可能性をふるいにかけて、安定した現実を自然に選び出している」という仕組みです。

この考え方を最初に提唱したのは、アメリカ在住のポーランド人物理学者、ヴォイチェフ・ズーレック氏でした。量子の世界では、粒子は複数の状態を同時に取れる(重ね合わせ)という奇妙な性質があります。

しかし、私たちの見ている日常世界では、粒子が複数の場所に同時に存在するようなことはなく、いつも一つのはっきりした場所にいます。この奇妙なギャップはどのようにして埋まるのでしょうか?

ズーレック氏が指摘したのは、私たちが実際に観察しているのは、量子系そのものではなく、その量子系が環境とやり取りして残した情報の痕跡だということです。

私たちは量子系を直接見るのではなく、環境が持つ量子系の情報を間接的に覗き見ているのです。

ここで「ダーウィニズム(進化的自然選択)」になぞらえる意味が見えてきます。ダーウィンの進化論では、環境にうまく適応した生物が生き残り、繁栄します。

それと同じように、量子ダーウィニズムの世界では、環境とのやり取りに最も強く安定な量子状態だけが残り、広く情報をばらまいて「現実」として存在を示します。

反対に、環境に弱く壊れやすい量子状態はすぐに消えてしまい、観測可能な現実には現れません。

量子の文脈では「適者」とは環境によって壊されにくい安定な状態のことです。

この環境に対して強い「勝者」だけが情報を環境中にコピー(複製)し、多くの観測者がその存在を確認できるようになります。

一方「不適者」である不安定な重ね合わせ状態などは環境との相互作用で速やかに崩れてしまい、観測可能な現実には現れません。

つまり、私たちが普段目にする物理法則や安定した現実は、無数の可能な量子状態が競い合った結果、自然淘汰の原理で選ばれたものなのです。

この考え方は、なぜ私たちが経験する世界が特定の法則性を持つのか、その理由を自然な進化プロセスによって説明する新しい視点を提供しています(注意:量子ダーウィニズムは物理法則そのものが進化するというわけではありません)。

量子ダーウィニズムとは、環境との相互作用によって安定で壊れにくい状態が自然に多数コピーされて環境に分散することで、誰もが同じ客観的現実を認識できるようになるという仕組みを指すのです。

もう少しかみ砕いて言えば、環境とは、量子系からの情報を単に消してしまう「ゴミ箱」のような存在ではなく、実は情報を保存して周囲に広めてくれる「証人(Witness)」のような役割を担っているのです。

例えば、空気中を飛び交う無数の分子や光の粒(フォトン)は、量子系がどのような状態であったかという情報をこっそりと受け取り、それを環境のあちこちに分散して記録します。

※これは観測の連鎖(デコヒーレンスの連鎖)のせいです:詳しくは次ページ

まるで環境全体が、量子世界で起きている出来事を逐一メモしてコピーを大量に作り、それらを周囲に掲示して回る「広告板」のような役割をしていると言えます。

そのため、私たち一人ひとりは量子系そのものを直接見ることはできなくても、環境のあちこちに貼り出されたこれらの「情報のコピー」を確認することで、同じ内容を共有することになります。

こうして、誰が見ても同じ情報に基づいているために、「客観的な現実」が成立するというわけなのです。

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