量子テレポーテーションを使った疑似的な超光速通信は可能
量子もつれや量子テレポーテーションを扱う科学記事のコメントではしばしば「超光速通信」に触れた書き込みが散見されます。
量子もつれによれば「一方を観測することでもう一方の状態が瞬時に確定する」「たとえ銀河の端と端にいたとしても一瞬で粒子の状態が伝わる」といった説明がされるため、この部分が「超光速通信」と関連していると思う人が多いでしょう。
一方、量子力学について詳しい人々にとってそのような勘違いは非常に滑稽に映るため、しばしば量子力学に関する記事のコメント欄は混乱状態に陥ります。
結論から言えば、量子もつれや量子テレポーテーションを使った超光速通信は疑似的には可能です。
近年の研究では、もつれ状態にある粒子に対して、もつれ状態が壊れない弱い観測を、恣意的な結果が得られるように行う方法が注目されています。
たとえば一方が縦揺れの光でもう一方が横揺れの光というもつれ状態にある光子対に対して、絶対に縦揺れしか観測されないような恣意的な観測を、もつれが壊れないギリギリの強さで行うといった方法です。
こうすると、もう一方の相方の粒子が観測された場合、横揺れの光として観測される確率を高めることが可能になります。
まるで八百長のような観測ですが、量子力学的にはアリなのです。
そしてこの方法を利用することで、疑似的な超光速通信も可能になります。
以下は地球から銀河の別々の端と端に向かう宇宙船を使った疑似的な超光速通信の例を示します。
一方の宇宙船の名前はA号、もう一方の宇宙船の名前をB号とします。
また双方の宇宙船の最大速度は光速の10%であるとします。
まず最初に出発前の2隻の宇宙船にもつれ状態にある粒子のペアを大量に詰め込みます。
この粒子たちは、一方が縦揺れならばもう一方は横揺れというようにもつれ状態にあります。
それぞれのペアには相方と同じ番号が振られ、長期間の維持に耐えられるような頑丈な容器に格納されます。
そして2隻の宇宙船の船長たちは、お互いが5万光年進んだ時点で通信を行うことを約束し、さらにそのときに使用する量子もつれのペアも決めておきます。
宇宙船の速度が光速の10%であるため、5万光年進むには50万年を要するでしょう。
そして50万年後、A号の船長は約束された時間になると決められた順番で、もつれ状態の粒子に対して縦揺れあるいは横揺れになるような恣意的な弱い観察を行います。
一方銀河の反対側にいるB号でも準備をはじめ、タイミングをあわせて決められた粒子に対する観測を行います。
するとB号の観測結果はA号で行われた恣意的な弱い観測の影響を受けて、縦揺れと横揺れのパターンが決まっていきます。
このとき縦揺れの光を「0」で横揺れの光を「1」となるようにお互いに取り決めて於けば、文字数と同じ1440対の量子もつれを消費して、上の図のようなアスキーアートを送ることが可能になります。
(※ズレのない時計や乗員の生命維持などのその他の問題はクリアされているとします)
2隻の宇宙船は10万光年も離れていますが、A号からB号へのハートマークの転送は量子もつれの性質を利用して瞬時に行うことが可能です。
0と1の組み合わせにモールツ信号のような意味を持たせれば、量子もつれのペアが枯渇するまで、文章のやり取りも可能になります。
ただあくまでこの超光速通信には「疑似的」という接頭語がつきます。
というのも2隻の宇宙船はハートマークを送る前に、地球で量子もつれのペアを分け合い、その後50万年の時間が経過しています。
そのためプロセス全体からみれば、ハートマークを送るのに50万年かかったと見ることもできます。
10万光年の距離を50万年かけてハートマークが送られたと考えれば、情報伝達プロセス全体からみて光速は超えておらず、アインシュタインの相対性理論にも反していないことになります。
しかし部分的にみれば疑似的な超光速通信が成り立っているかのような現象がみられるのです。
そこで今回、シカゴ大学の研究者たちは、この超光速通信の蜃気楼の仕組みを使用して、株式市場における情報伝達の優位性を獲得する方法を考案しました。