順調に見えた生活が一転!「世界」が崩壊し始めた
バイオスフィア2では、バナナやパパイヤ、サツマイモ、ビート、ピーナッツ、豆類のほか、米や小麦の作物を含む総食料の83%を農業で供給しました。
また家畜として、ヤギのメス4頭とオス1頭、めんどり35羽とおんどり3羽、メス豚2頭にオス豚1頭が持ち込まれています。
バイオスフィリアンたちは作物を栽培したり、家畜からミルクをしぼったり、卵を得たり、つがいを繁殖させて食糧を生産しました。
初めの数カ月間は食糧も十分であり、各エリアの生態系も見事に循環し、小さな地球は8名の男女にとってまさにユートピアでした。
ところがバイオスフィア2に異変が生じるのにそう時間はかかりませんでした。
まず最初に浮上したのは食糧の問題です。
農地では作物の成長が遅く、手間もかかりすぎました。例えば、コーヒーの木は2週間かけてようやく1杯分の豆が実る程度だったという。
主食も安定して得られなくなり、彼らはビーツとサツマイモばかりを食べて、絶え間ない飢えを感じるようになりました。
彼らの体重は実験前と比較して平均16%も減少することになります。
しかし最も重大な異変はバイオスフィア内の酸素濃度が急激に低下し始めたことでした。
実験開始から半年ほどで酸素濃度が徐々に下がり始め、呼吸がしづらくなってきたのです。
地球の酸素濃度は約21%ですが、バイオスフィアでは最終的に14.2%にまで落ちました。
これは高度4000メートルの酸素濃度に相当し、チベット高原にいるみたいなものです。
クルーの一人マーク・ネルソンはのちに「常に登山しているような感覚で、長い言葉を話すときには必要以上に息継ぎが必要だった」と振り返っています。
一体なぜ酸素が減っていってしまったのか?
その原因は地下コンクリートにありました。
バイオスフィア2の基盤は先ほど言ったようにコンクリートでできています。
ところがコンクリートには自然の土壌とは違い、空気中の二酸化炭素を吸って炭酸カルシウムに変えてしまう性質があったのです。
二酸化炭素がなくなると植物が光合成に必要な原料を失うため、酸素が作り出せなくなります。
地球全体だとコンクリートの面積はほんのちょびっとなので問題ありませんが、バイオスフィア2の基盤はほとんどコンクリです。
こうして酸素が徐々に失われていったことで、今度は動植物たちが次々と死滅していきました。
最初に植物の花粉を媒介する昆虫や鳥が死んだことで植物が繁殖しなくなり、植物を餌とする動物たちも姿を消していきます。
バイオスフィアに導入された大半の動植物が死滅する一方で、繁殖したものもいました。
ゴキブリです。
ゴキブリは落ち葉を食べる分解者として熱帯雨林に持ち込まれていたのですが、あらゆる餌や環境に適応できる彼らは、他の動植物が死んでいくのを尻目に、一人勝ちの状態になっていました。
(ほんとゴキブリの生命力は恐ろしいですね… )
実験の後半にもなると、クルーたちは繁殖したゴキブリや雑草の中で生きなければならなかったという。
ユートピアはもはや地獄絵図に変わっていました。
さらにここへ追い打ちをかけるように、新たな問題が彼らを襲います。
それがメンタルの崩壊です。