「傍観者効果」が知られるきっかけとなった事件
傍観者効果が社会的に認知され始めたのは、1964年に米ニューヨーク市で発生した「キティ・ジェノヴィーズ事件」がきっかけです。
この事件では、キティ・ジェノヴィーズ(1935〜1964)という女性が深夜に自宅のアパート前で暴漢に襲われ、彼女の悲鳴により近隣にいた38名の住民がそれに気づき、目撃しました。
ところが奇妙なことに、その誰一人として警察に通報したり、キティを助けようとしなかったのです。
結局、暴漢は彼女を傷害・強姦したのちに逃走し、キティは死亡してしまいました。
このニュースは当時、都会人の冷たさを大々的に報じたものとして話題になっています。
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その後の1968年、アメリカの社会心理学者であるビブ・ラタネとジョン・ダーリーがこの事件に興味を持ち、多くの人が事件を目撃したにも関わらず助けようとしなかった原因を探ろうと実験を行いました。
ここでは学生を対象に「2名・3名・6名」の3つのグループを作り、それぞれを個室に入れてグループでの議論を行わせます。
その最中に1人が発作を起こして倒れる演技をしました。
その結果、2名のグループでは全員がパートナーを助けたのに対し、6名のグループで助けようと行動したのは38%と減少していたのです。
この実験から両氏は「キティ・ジェノヴィーズ事件では、都会人の心が冷たいから誰も助けなかったのではなく、自分以外にも多くの人が見ていたために助けなかったのだ」と結論しました。
では、なぜ周りに人がたくさんいるほど、人助けを躊躇(ちゅうちょ)してしまうのでしょうか?