骨がスカスカになる「骨粗鬆症」と治療の課題
骨粗鬆症は、特に閉経後の女性や高齢者に多く見られる病気です。
私たちの体の骨は、少しずつ溶かされ、また新たに作られるという「骨吸収」と「骨形成」を日々繰り返しています。
しかし、老化などが原因でこのバランスが崩れ、骨吸収のスピードが骨形成を上回る時に、骨粗鬆症になると考えられています。
そうなると、骨密度が低下し、ちょっとした転倒や衝撃でも簡単に骨折してしまいます。
例えば、高齢者が自宅で転倒し、股関節を骨折するケースは非常に多く、寝たきりになる原因の一つとなっています。
また、階段でつまずいて手をついた際に手首を骨折するケースや、荷物を持ち上げただけで背骨が圧迫骨折するケースも報告されています。
EPFLに所属するドミニク・ピオレッティ氏も、次のように述べています。
「効果的な予防策がなければ、50歳以上の女性の約40%、男性の約20%が少なくとも1回は骨粗鬆症による大きな骨折を経験します。
そして高齢者の場合、股関節付近の大腿骨頸部の骨折では、骨折後1年以内の死亡率が20%に達し、骨折した人の半数以上が骨折前の活動に二度と戻ることができなくなります」
これまで骨粗鬆症の治療法としては、骨吸収のスピードを低下させるか、骨形成を促進させる全身薬が使用されてきました。
しかし、これらの治療は即効性がなく、効果が出るまで1年ほどかかる場合もありました。
また、長期使用による副作用や費用が高いといった問題もありました。
そこで、研究チームは「骨折リスクの高い部分をピンポイントで強化する新たな治療法」として、ハイドロゲルを用いた局所的な骨強化技術の開発に取り組みました。
ハイドロゲルは、水分を豊富に含んだゲル状の材料で、今回の研究では、体内で自然に生成される粘着性の物質「ヒアルロン酸」と、骨組織の主成分である「ハイドロキシアパタイト」を組み合わせた特殊な配合が用いられました。
このゲルは「HA2」と呼ばれ、骨の成分に似た特性を持ち、骨の弱った部分に直接注射することで、局所的に骨密度を向上させることができます。
さらに、骨を壊す働きを抑える「ゾレドロン酸(ZOL)」を加えた「HA2-ZOL」というバージョンも開発され、これにより骨の吸収を防ぎながら、新しい骨の形成を促すことが可能になりました。