オオカミ再導入がもたらした「奇跡」
1995年から1996年にかけて、オオカミがイエローストーンに再導入されると、ワピチの個体数が減少しただけでなく、その行動も変化しました。
オオカミの存在により、ワピチは特定の場所での採食を避けるようになり、これが植生の回復につながりました。
リップル氏らの研究では、2001年から2020年にかけて、ヤナギの樹冠の体積が約1500%も増加したことが明らかになりました。
最終的にこの変化は、
- ビーバーの個体数回復
- 湿地と水辺の環境改善
- 鳥類や昆虫の多様性増加
といった好影響を生み出しました。
![画像](https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/02/1-s2.0-S2351989425000290-gr1_lrg-506x600.jpg)
特にビーバーの復活は重要です。
彼らが作るダムは、湿地の保水能力を高め、さらに多くの生物が生息できる環境を整えます。
また、植物や樹木の再生によって川岸の浸食が穏やかになり、川の流れも変化しました。
川の蛇行が少なく、水路が深くなり、やがて小さな池も出現するようになったのです。
オオカミが戻ることで、川や湿地の生態系が大幅に改善されたのです。
これはまさに「栄養カスケード(Trophic cascade)」の典型例です。
栄養カスケードとは、生態系において捕食者が獲物の個体数や行動を変化させ、それがさらに下位の生物群や環境にまで波及する現象のことを指します。
オオカミの再導入によってワピチの採食行動が変わり、これが植生の回復や地形の変化をもたらしたのです。
1つの捕食者の存在が生態系全体のバランスを大きく左右することを、イエローストーンの奇跡は見事に証明しています。
この研究では、20年という長期的なデータをもとに、生態系の変化を評価し、オオカミの再導入の影響力を示しました。
しかし、研究者たちは「元の状態に完全に戻るわけではない」と指摘しています。
なぜなら、長年にわたる環境の変化によって、かつての湿地は乾燥し、一部の地域では新たな生態系が形成される可能性があるからです。
環境への影響力が大きいため、野生動物の駆除と導入は、慎重でなければいけないのです。
緑の世界仮説、でしたっけ
頂点(ないし主要な)捕食種は、個体数が少なくとも環境・生態系に大きな影響を与える
というのは、人類種の拡散は大型動物の絶滅だけではなく環境も激変させたのだろうということ、それは人類種固有の問題ではなく普遍的な現象だったこと、を連想させますね
元の状態、というのが存在するという幻想に囚われているのか今の懐古主義者の大きな罪。
生物の歴史は戻らぬ旅人、もとに戻るなどあり得ず、絶えす適応し、変化し、進化していく。
まあ、たがらといってやりたい放題やったら急速に絶滅していくのでほどほどに、人にも自然にもまあまあ都合のいいように旅の歩をすすめるしかないし、そうやってもその先の道があるかはわからない。
非常に劇的な効果ですが、昆虫界も含め、捕食者の存在による植食者の行動変化の普遍性を考えると、意外ではありません。ここまで劇的な効果を見ると、日本でもオオカミの放獣を考えたくなりますが、そのままオオカミを放獣するのは、人口密度の高い日本では人身事故が無視できない頻度で起こりそうで、リスクが大きすぎるように思えます。畜産被害は補償すれば良いかもしれませんが、人身事故は補償で死者が帰ってくる訳ではないので、実質補償できません。
ただ、妄想ですが警察犬のような訓練された犬を使った何らかの威嚇や、人は絶対襲わないオオカミロボット?のような人工物による威嚇は面白そうな気がします。