宇治市源氏物語ミュージアムに展示されている復元された牛車、平安貴族はこれに乗って通勤していた
宇治市源氏物語ミュージアムに展示されている復元された牛車、平安貴族はこれに乗って通勤していた / credit:Wikimedia Commons
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勤務時間は4時間!平安貴族の仕事事情について

2025.04.27 11:30:35 Sunday

『源氏物語』をはじめとする平安文学の中では、貴族たちは恋愛をしたり和歌を詠んだりする描写が多く、仕事をしている場面はあまり見られません。

しかし作品の中で描写されていないだけで、彼らも日々、一定の規律に従って職務にあたっていました。

果たして平安貴族たちはどのような仕事をしていたのでしょうか?

この記事ではあまり知られていない平安貴族の勤務時間や仕事内容について紹介していきます。

なおこの研究は、日向一雅(2004)『源氏物語と平安貴族の生活と文化についての研究-貴族の一日の生活について-』明治大学人文科学研究所紀要54巻p. 415-434に詳細が書かれています。

明治大学学術成果リポジトリ https://meiji.repo.nii.ac.jp/records/13200

日の出とともに仕事を始めた平安貴族

宇治市源氏物語ミュージアムに展示されている復元された牛車、平安貴族はこれに乗って通勤していた
宇治市源氏物語ミュージアムに展示されている復元された牛車、平安貴族はこれに乗って通勤していた / credit:Wikimedia Commons

平安の都、つまりあの華やかでありながらも厳格な日常が彩る世界では、実は朝というものがただ単に夜の終わりに始まるのではなく、むしろ薄明かりが忍び寄るその瞬間にひそかに幕を開けるという不思議な論理がありました。

たとえば、『延喜式』16巻に記された宮中の諸門の開閉時刻を見れば、夏至の頃はまだ星影の中、午前4時30分頃、春分・秋分の頃なら5時42分頃、冬至では6時48分頃に最初の開門鼓が鳴り響き、実際の朝日が顔を出すおよそ15~20分前に、都の息吹が告げられたのです。

その鼓声は、まるで「おはようございます」と優雅に声をかけるかのように、宮中の貴族たちに今日一日の始まりを宣言する役目を果たしていました。

やがて、日の出から45分ほどした後、第二の開門鼓が鳴れば、既に貴族たちは厳かなる出仕の支度に取り掛かっていたのです。

たとえば『源氏物語』の「夕顔」巻に描かれるように、光源氏でさえも、夜の帳が薄れるとともに、隣家から聞こえる庶民のざわめきや、かすかな鈴の音に耳を傾けながら、幻想的な明け行く空の中で次の目的地へと牛車を走らせていました。

このように、平安の貴族たちの日常は、ただ美しい朝景色に包まれていたわけではなく、実に几帳面で厳粛な儀式の連続であったのです。

出仕に際しては、束帯や布袴、衣冠、直衣といった各種の服装に身を包み、ひとたび外へ出れば、その身なりや立ち振る舞いは、まるで計算された舞台の上の役者のように、細かい規律に縛られていました。

ある記録によれば、正装の束帯で勤務する苦痛さえも、貴族たちの間で語り草になっていたとのこと。

なお仕事内容に関しては、年中行事の準備や書類の決裁が中心です。

また貴族の中でも位の高いものは、重要事項を決定する会議に参加することもありました

このような会議では位の低いものから順番に意見を言っていき、会議の取りまとめ役が議事録を作成して天皇や摂政に提出しました。

なお当然位の高い貴族の意見が通りやすかったものの、位の低い貴族の意見が全く通らなかったわけではありません。

またあくまで最終決定者は天皇や摂政ということもあり、たとえ会議で全員の意見が一致していたとしても、その案が却下されることもありました。

そして、勤務時間は夏至の時期が9時24分頃、春分秋分の時が10時24分頃、冬至の時期が11時18分頃までであり、この時間になると退朝鼓が鳴り響いて勤務が終了しました。

勤務時間は大体3時間半から4時間と短く、貴族たちは朝の儚い瞬間に全精力を注いでいたのです。

しかし、勤務が終わった後も、一部の貴族は宿直などで都の秩序維持に従事していました。

毎日ではないものの、午後と夜間に宮中に残る「宿直(とのい)」という義務が彼らに課されていたのです。

宿直勤務中の貴族は午前の勤務が終わった後も宮中に残り、その日は一日中仕事をしていました

まさに、平安の都は一見するとのんびりとした風情を漂わせながらも、その裏では数多の決まりごとと、貴族たちの不断の努力によって、日々の営みが回っていたのです。

このように、平安の朝はただ単に夜明けとともに始まるのではなく、さまざまな鼓の音とともに、厳密に組織された儀式の中で「一日の始まり」が宣告されます。

いかにも幻想的でありながら、どこか機械的なまでに精緻なその様相は、現代の私たちが夢見た理想郷と現実の厳しさが、奇妙なまでに交錯する一篇の詩のようでもありました。

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