妊娠中の母親のメンタルが子どもの運動能力を左右する?

今回、意外な結果として報告されているのが、抑うつ症状が強い母親の子どもは、目と手の協調スキルが高い傾向にあったことです。
妊娠中の母親のメンタルが、出産から5年後の子どもの運動能力に影響するというのは一見するとよくわからない関連です。
研究チームは、この予想外の結果についていくつかの仮説を立てています。
ひとつの可能性として、妊娠中のストレスが子どもに「早期適応型の発達戦略(faster developmental strategies)」をもたらすことが挙げられています。
これは、母体のストレスにより、胎児が発育段階から環境の困難に備えるように変化するという仮説です。この適応メカニズムの一環として、運動能力が向上する可能性があると考えられています。
また、ストレスや抑うつが増えると、体内でグルココルチコイド(特にコルチゾール)というホルモンのレベルが上昇することが知られています。
コルチゾールは胎児の脳の発達に重要な役割を果たし、特に妊娠後期にそのレベルが高まると、認知能力や運動能力の発達が加速する可能性があるとされています。
抑うつ症状とは、気分の落ち込みや意欲の低下が続く状態を指しますが、では妊娠中は落ち込んでいた方が子どもの将来のいいのか、というとそれは早計な判断でしょう。
今回の研究では、参加した妊婦のほとんどが比較的低い抑うつスコアを示しており、強い抑うつ症状がある場合に同様の結果が得られるかどうかは現在のところ不明です。
研究者たちは、「今回の研究結果の臨床的な意味合いはまだ明確ではなく、さらなる研究が必要だ」と指摘しています。
妊娠中の選択が子どもの未来を作る
妊娠中の母親のライフスタイルは、想像以上に子どもの未来に影響を与えているようです。
食生活を改善することで子どもの運動能力を高める可能性があり、過度な体脂肪の蓄積を避けることで運動発達の遅れを防ぐことができるかもしれません。
また、妊娠中のメンタルヘルスと子どもの発達の関係については、今後さらに深く掘り下げるべきテーマでしょう。
現在の産科医療では、妊娠中の食事指導は主に栄養面に焦点が当てられています。
しかし、本研究の結果を踏まえると、今後は「運動発達を促すための食事指導」が新たに組み込まれる可能性も考えられます。
母親の選択が、子どもの未来を形作る——この事実を知ることで、より良い選択ができるかもしれません。