容器を縦に振れば泡はどう動く?実験が暴いた横走りのメカニズム

容器を縦に振ったら内部の泡はどうなるのか?
答えを得るため研究チームはまず、透明な液体(シリコンオイルなど)を満たした容器を、電磁式シェーカーで垂直方向に振動させる仕組みを用意しました。
振動の周波数と振幅を細かく制御しながら、容器の上部に浮かんだ気泡がどのように動くかを、上面および側面から高速カメラを使って追跡・撮影します。
気泡の大きさもいくつか変え、形や体積が異なる泡で同じような現象が起きるかどうかをチェックしました。
すると、振動の強さがある閾値を超えた瞬間、それまでほとんど上下方向に揺れていただけの泡が、突如横方向へ移動を開始することを確認しました。
驚くべきは、単に左右にフラフラ動くだけでなく、一定の方向に真っすぐ進む「直線走行」、あるいはぐるりと回る「円運動」、さらには突然向きを変える「ラン&タンブル」と呼ばれるランダムな動きが現れることです。
普通なら、縦方向の揺れが泡を上下に伸縮させるだけにとどまります。
しかし、その振動がある条件下で“ずれ”を起こすと、泡の左右両側の動きに微妙な非対称性が生まれ、周囲の液体を片側に押し出すようになります。
これが結果的に泡を“横へ”動かす力へと発展するのです。
振動の周波数や振幅、泡のサイズを調整すると、その切り替えが起こるパターンを制御できることもわかりました。
加えて、映像を解析しながら水流(液体の流れ)を可視化する実験も行ったところ、泡の動きに合わせて周囲の液体が巧みに前後へかき分けられている様子が確認されました。
これは泡が自力で起こす“推進”が単なる見かけだけではなく、液体に生じる慣性力によって実際に駆動されている証拠といえます。
つまり、この「縦揺れで横走り」という奇妙な運動は、泡の形状変化と振動のタイミングが噛み合ってはじめて成り立つ、新たな流体力学的メカニズムによるものだと結論づけられました。
一般的な水生生物が尾びれで渦を作って前へ進むのとは異なり、バブルが慣性力だけを利用して進むのです。
このような現象は、従来の泡研究ではほとんど想定されてこなかった新たな流体力学的メカニズムといえます。