暴力による影響は遺伝するのか
今回の研究の鍵となるのは、「エピジェネティクス」と呼ばれる分野です。
これはDNAの塩基配列そのものではなく、DNAの化学的な修飾によって遺伝子の発現が変化する現象を指します。
たとえば、ストレスや栄養状態によって特定の遺伝子がオン・オフされることが知られています。

過去の研究では、戦争を経験した兵士や虐待を受けた子供のDNAに、ストレス応答に関わる遺伝子のメチル化(DNAの化学修飾)が見られることが確認されています。
今回のフロリダ大学の研究では、どのような条件下でこのエピジェネティックな変化が起こるのか、またそれが世代を超えてどのように引き継がれるのかを詳しく調べました。
研究チームは、戦争や暴力を経験した人々の血液サンプルを採取し、DNAのメチル化パターンを解析しました。
3世代にわたるシリア人48家族から採取したDNAを分析したのです。
これらの家族には、1980年と2011年に生じたシリア内戦を経験した人々、また妊婦が含まれていました。