世界最大級の新生児MRI解析

私たちの脳は、多くの領域が互いに密につながり合いながら、驚くほど効率よく情報を処理しています。
成人を対象とした神経科学の研究では、この仕組みが「スモールワールド」と呼ばれるネットワーク構造として明らかになってきました。
わずかなステップで脳全体を結びつけながら、機能ごとにまとまりを保つ――この絶妙なバランスが、複雑な認知活動や意識を支える基盤だと考えられています。
ところが、こうした脳の“つながり方”がいつ、どのように形成されるのか――とりわけ、生まれたばかりの赤ちゃんや早く生まれた早産児の段階ではどうなっているのか――については、まだはっきりとわかっていませんでした。
近年、妊娠後期(28週以降)の胎児脳がすでに高い情報処理の準備を始めている可能性が示唆されてはいたものの、早産によって脳の小世界性や高次ネットワークの形成がどれほど影響を受けるのかは、十分な実証データがなく議論が続いていたのです。
これまでにも、新生児を対象としたfMRI研究は幾つか報告されていますが、サンプル数や計測精度の限界によって結果がまちまちでした。
さらに、脳は感覚・運動や注意・実行制御、言語や視空間認知など多面的なネットワークを内包しており、それぞれがどの時期にどのくらい成熟し、早産でどう変化を被るのかを正確に捉えるには、大規模かつ多角的な解析が不可欠です。
そこで今回、研究者たちはDeveloping Human Connectome Project(dHCP)という大規模な新生児fMRIデータベースを活用し、生後すぐの赤ちゃんの脳に小世界構造がどの程度備わっているのか、また正期産児と早産児の間にどのような差異があるのかを包括的に調べることにしました。
こうした大規模データを用いることで、私たちの脳がいつ“意識の原型”ともいえる高度なネットワークを完成させるのか――その核心に迫ろうと試みているのです。