2万5000年年前の古代人類は「居住不可能な」気候の中で暮らしていた
2万5000年年前の古代人類は「居住不可能な」気候の中で暮らしていた / Credti:clip studio . 川勝康弘
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2万5000年年前の古代人類は「居住不可能な」気候の中で暮らしていた (2/2)

2025.03.17 21:00:50 Monday

前ページ人類史の空白を生んだ最終氷期極大期

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最終氷期極大期を生き抜いたチベットの民はどこに行ったのか?

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Credit:Wenli Li et al . Quaternary Science Advances (2025)

今回の研究から見えてきたのは、当時のチベット高原が「完全に居住不可能」だったわけではないという新たな視点です。

厳しい寒冷期にあっても、川の流域にはある程度の水資源や耐寒性の植物、そしてそれらを求めて集まる草食動物が生息可能な環境が残っていたと推測されます。

結果的に、人類にとってはそこが生存の拠点となり得たのです。

また、石刃(ブレイド)技術やオーカーの使用などから、寒冷地帯での狩猟や道具の維持管理、さらには装飾や意識的な表現行為といった高度な文化的側面がうかがえます。

つまり、氷期における人類の生活は「ただ寒さに耐えていた」だけでなく、環境に即した技術と文化を築いていたということです。

一方、最終的に彼らがこの地でどうなったのかについては、研究者たちは「H2寒冷事象」の到来によって急激な気候変化が起き、一度は居住が途絶えた可能性があると述べています。

H2寒冷事象(Heinrich Event 2)とは、最終氷期極大期に起きた一連の「ヘインリッヒ事象」のうちのひとつです。

ヘインリッヒ事象は、北半球の巨大氷床が崩壊した氷塊(icebergs)のように海へ流れ込んで、大量の氷塊が北大西洋に拡散した時期を指します。

氷塊が大量に海へ流れ出すと、塩分濃度や海流の流れが急激に変化し、結果として世界規模で気候に大きな影響がもたらされるのです。

最終氷期極大期はそれ自体が地球がとても寒冷だった時期ですが、ヘインリッヒ事象が起こると、さらに一時的に気温が下がったり乾燥が進んだりして、いっそう厳しい環境になると考えられています。

特に、H2寒冷事象(約2万4500〜2万3000年前頃)は、最終氷期極大期期の中でも“寒さの底がさらに深まった”ような特異なエピソードだったといえます。

つまり、「最終氷期極大期の中にあっても、さらにガクッと気温が落ち込む短期的な寒波があった」とイメージするとわかりやすいでしょう。

たとえば、川の流域など比較的住みやすい環境がわずかに残っていた場所でも、H2寒冷事象が到来すると、動植物資源のさらに激しい減少や急な乾燥化が発生した可能性があります。

最終氷期極大期自体が厳しい時代だったのに加え、この事象が追い打ちをかける形で、一時的に人々が移動せざるを得なくなったり、居住を続けられなくなったりしたと考えられます。

こうした短期間の気候変動が、当時の人々にとっていかに大きな脅威であったかを、H2寒冷事象は示唆しているのです。

その後、約2万3700〜2万3100年前ごろに再び人々が戻ってきた形跡があるものの、最終氷期極大期が終わった後に彼らがどこへ行き、どのように暮らすようになったかは明確にはわかっていません。

おそらく、さらに気候が変動する中で、より資源の豊富な地域へ移住したか、あるいは同じ高原内で適応を続けながら別の集団と混ざり合った可能性も考えられます。

しかし、その詳細を確定するためには、今後の遺伝子解析や他の考古学的証拠との統合的な研究が不可欠だといえるでしょう。

いずれにせよ、本研究で最も示唆的なのは、従来「不可能」とされていた時期と場所においても、わずかな地形的・気候的利点に柔軟に頼りながら、洗練された技術と社会的行為をもって生き抜いた古代人類の姿です。

これは、私たちが思っている以上に人類が多様な条件に適応できる存在であることを示すと同時に、過去の環境変化に対するレジリエンスの高さを再評価させる重要な発見です。

今後は、他地域の遺跡との比較やさらに深い層での調査によって、この地域での居住が季節的なものだったのか、年間を通した定住に近いものだったのか、そして彼らのその後の移住や集団形成がどのように進んだのかという、より詳細な生活実態の解明が期待されます。

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