新旧の雇用制度のズレで真面目な若者ほど陥っている「適応障害」

適応障害とは、明確なストレス因子に直面した際に、その状況にうまく対処できず、心身に不調をきたす状態を指します。
たとえば職場での人間関係の悪化、過重労働、異動や転職などが引き金となり、不安、抑うつ、イライラ、不眠、食欲不振などの症状が現れます。
これを聞くとうつ病と同じ症状のように感じる人も多いかもしれませんが、適応障害はうつ病とは異なり、ストレス要因が取り除かれると比較的短期間で症状が改善されるのが特徴です。
ただその一方で、適切な環境調整や心理的支援がなされないと、より重い精神疾患に移行するリスクもあります。
しかし、近年の日本でなぜこの症状が若年層を中心に増えているのでしょうか?
その原因の1つと考えられているのが、日本社会に根づく雇用制度の変化です。
日本はもともと「メンバーシップ型雇用」というものが一般的でした。
これは、職務内容や勤務地、労働時間を限定せず、会社という“共同体”に所属することを前提とした雇用形態です。新卒一括採用、終身雇用、年功序列といった要素がその典型です。
この雇用形態では、個々の職務よりも組織内の人間関係や協調性が重視されます。裏を返せば、「空気を読む力」や「調和を乱さない態度」が過剰に求められるとも言えます。
しかし、こうした雇用は古い形態だと感じる人は多いでしょう。
実際、現代の日本の雇用制度は、欧米に多い「ジョブ型雇用」に変化してきています。
「ジョブ型雇用」では、職務(ジョブ)が明確に定義されており、成果や専門性によって評価されます。人間関係はあくまで職務遂行の手段であり、過度な感情的なつながりや同調圧力は比較的少ないのが特徴です。
日本においては高度経済成長期(1960年代)から1990年代初頭まではメンバーシップ型が主流であり、それ以降徐々にジョブ型的な要素も導入され始めましたが、雇用制度全体は今なお移行中の段階と言えます。
そのため、若年世代に求められる働き方と、現場に残る古い雇用慣行とのズレが、若年層にストレスや精神的不調を引き起こしやすくしているのです。

筑波研究学園都市の調査では、1996年〜2016年の20年間で、「職場の人間関係」に困っていると回答した人の割合が大きく上昇しており、それに比例して「気分が落ち込む・抑うつ感が続く」といった精神的な不調を訴える人も増加しているといいます。
実際、会社の雇用方法は、成果主義の導入や非正規雇用の増加で変化しているのに、現場では古いメンバーシップ型の価値観が残っていて、職場内の和を重視するような雰囲気があり長時間労働の常態化などにつながっています。
こうした、さまざまな社会変化に伴う世代間の価値観のズレなどがこの問題には関わっていると考えられるのです。