天才的で強力なリーダーは劇薬にもなる

研究チームが行った候補者選択実験は、複数回にわたり架空の候補者AとBを提示し、「司法の独立をどこまで尊重するか」「公共メディアをどのように運用するか」といった民主主義の鍵となる要素を組み合わせて見せました。
あからさまな独裁ではなく、「判事は政府が任命すべき」「公共放送は与党の方針を批判すべきでない」など“ややグレーな強権的”なパターンも取り入れ、「どれくらいなら容認されるか」を探ったのです。
さらに、その候補者が有権者の支持政党にどの程度近いかも併せて提示し、“党への忠誠”と“民主主義へのこだわり”のどちらが投票行動を左右するのか、より現実的な形で検証できるようにしました。
結果、リベラルな民主主義観が強い(少数派保護や権力分立を重視する)層は、候補者がほんの少しでも強権的な発言をすると「受け入れられない」と回答する割合が顕著に高いことがわかりました。
一方、「多数決が正義」「強いリーダーこそ必要」という考えを持つ層は、同じような強権的姿勢に対してあまり抵抗を示しません。
さらに興味深いのは、自分の支持政党の候補者が権威的な政策を打ち出した場合でも、リベラルな価値を強く持つ人たちは、「それならもう支持しない」と他の候補に乗り換える可能性が高かったことです。
つまり、「民主主義の侵害をどこまで許せるか」は“党派対立”だけでなく、その人が抱く“民主主義の中身”次第で大きく変わるのです。
今回の研究が革新的なのは、単に「民主主義が大事ですか?」と問うのではなく、「具体的にどんな権威主義的手段をどこまで容認するのか」を詳細に測定した点にあります。
多くの人が「民主主義を守りたい」という思いを持っていますが、“どこからが問題か”という一線が人によって大きく違うことを、データとして可視化したのです。
この一線の違いが積み重なると、社会全体として気づかないうちに権力集中を許容する“土壌”ができあがる可能性があります。
世界各国でポピュリストリーダーや極端な政治の動きが増えるなか、この研究は“民主主義を支える意識の共有”こそが、徐々に権力が集中する事態を食い止めるカギだと強く示唆しています。