日本人は自由主義より権威主義的なストーリーのほうに説得力を感じてしまう
日本人は自由主義より権威主義的なストーリーのほうに説得力を感じてしまう / Credit:Canva
psychology

日本人は自由主義より権威主義的なストーリーのほうに説得力を感じてしまう

2025.03.25 18:00:30 Tuesday

日本といえば「民主主義を尊重する先進国」というイメージを、多くの人が思い浮かべるのではないでしょうか。

ところが、日本の早稲田大学(Waseda Univ.)で行われた2つのオンライン実験によって、私たち日本人は想像以上に、中国やロシアなどの権威主義国家が発信する“ストーリー”に説得されやすい可能性があることが明らかになりました。

民主主義の国で暮らしているのだから、もっとリベラルな物語のほうを支持するはず──そう考えるのが普通かもしれません。

しかし実験結果では、自由主義的な主張よりも、権威主義を正当化・称賛するような物語のほうが、私たちの意見を大きく動かすケースがあるのです。

いったいなぜ、民主主義が当たり前の社会で育っているはずの日本人が、権威主義国家の発信する物語に惹かれてしまうのでしょうか。

しかも、そのようなストーリーの出どころが「中国政府」や「ロシア政府」であると明示されていても、その効果は大きく下がらないといいます。

この研究は、私たち自身の思い込みを揺さぶり、さらに「日本人の心は意外と自由主義じゃないのかもしれない」という問いを突きつけてきます。

私たちが当たり前と思っている「民主主義的な考え方」がどれほど脆く、そして権威主義国家の巧みな語り口がどれほど強力かを改めて考えさせられるかもしれません。

では、私たちはこうした結果をどのように受け止めればいいのでしょうか?

研究内容の詳細は『Democratization』にて発表されました。

Autocracies win the minds of the democratic public: how Japanese citizens are persuaded by illiberal narratives propagated by authoritarian regimes https://doi.org/10.1080/13510347.2025.2475472

SNS時代に加速するプロパガンダの脅威

日本人は自由主義より権威主義的なストーリーのほうに説得力を感じてしまう
日本人は自由主義より権威主義的なストーリーのほうに説得力を感じてしまう / Credit:Canva

中国ロシアといった権威主義国家が、ソーシャルメディアや自国メディアを通じて海外世論を直接動かそうとする試みが近年ますます盛んです。

2016年のアメリカ大統領選挙でロシアが世論工作を行ったという疑惑や、新型コロナウイルスをめぐる中国政府の世界向け広報が、その一例として注目されました。

これらは「シャープパワー」と総称され、従来のハードパワーやソフトパワーと異なり、“情報操作”を介してターゲット国の内部に影響を及ぼすのが特徴です。

さらに、ユーザー同士がSNSで自発的に拡散する「参加型プロパガンダ」へと移行している点も見逃せません。

権威主義国家が発信する物語(ナラティブ)は、自国の優位性を称賛したり、民主主義の制度的な欠陥を批判したりする内容が多く、感情に強く訴えかけるため、論理的データ以上に説得力を発揮しやすいと言われています。

欧米では、こうしたナラティブの効果を検証する研究がすでにいくつか行われています。

たとえばドイツを対象にした研究(Maderら, 2022)では、権威主義的傾向や陰謀論への親和性が高い人がロシアの発信するプロパガンダに影響されやすい可能性が示唆されました。

しかし、中国やロシアに地理的・文化的に近い東アジア、とくに日本に注目した研究はまだ多くありません。

経済的にも外交的にも結びつきの強い日本が、こうした“非リベラル・ナラティブ”をどの程度受け入れやすいのかは、大きな謎として残っていたのです。

そこで今回、研究者たちは2回にわたるオンライン調査実験(Study 1とStudy 2)を実施し、日本人が「権威主義を擁護するストーリー」と「リベラルな視点のストーリー」のどちらにより説得されるのかを比較することにしました。

次ページ日本人の心は自由主義よりも権威主義に魅力を感じる

<

1

2

3

>

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

スマホ用品

心理学のニュースpsychology news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!