キリンたちはフェアプレイを好む
キリンたちのネッキングは、剣道やフェンシングのような礼儀を重んじる戦いです。
まず、キリンたちは戦いの前に首を交差させるような穏やかな接触を交わし、「戦う意思があるかどうか」を確認する“儀式”を行うことが多いと言われています。
まるでスポーツの前の握手や礼のようです。
また動物学者たちは、キリンたちが戦いの最中も、常に相手に配慮を示し、公平性を大事にしていることを発見しました。

例えばキリンたちは人間でいう「左利き」か「右利き」といった利き手と似た「好みの側」をもっています。
そしてマンチェスター大学(UoM)のジェシカ・グランワイラー氏は、「2頭ともあらゆるやり取りにおいて、お互いの好みの側を尊重していた」と述べています。
加えて注目すべき点として、「ネッキングを行うキリンたちはフェアプレイを好む」といったことも挙げられます。
例えば、ネッキングにより片方のキリンがバランスを崩した時、もう片方はここぞとばかりに追撃しません。
バランスを崩したキリンが正しい体勢に戻るの待つために、有利だったキリンは少しの間試合を止めるのです。
まるで人間たちが審判を伴ったルールありの試合を行う時のように「規範を遵守する態度」が存在しているのです。
これほど礼儀を重んじる戦いが行われることは、野生動物の中では珍しいことです。
また戦いの終わりも優雅です。
片方のオスがネッキングをやめてその場から離れると、それが負けを認めたことになり、試合はあっさりと終了します。
勝った方が勝利を誇示したり、負けたキリンを追いかけまわしたりすることもありません。
キリンたちは戦いの始まりから終わりまで、フェアプレイを貫くことができるのです。

ちなみに研究では、若いキリンは経験を積むために軽めのネッキングを繰り返すことが確認されており、これは社会性の発達にも関係していると考えられています。
キリンたちのネッキングは単なる喧嘩ではなく、社交、力の見せ合い、メスへのアピールといった複雑な目的を持った行動です。
そしてその全てが、驚くほどにエレガントに行われています。
私たち人間も、日常の中で他者と衝突したり、意見をぶつけ合ったりすることがあります。
優劣を決めなければいけない時もあるでしょう。
そんなとき、キリンのように“品位を保ちながら自分を主張する”という態度を思い出せたら、争いの意味も変わってくるはずです。
キリンたちの首の一振りが教えてくれるのは、「強さとは、優しさと美しさを兼ね備えたものだ」という真理なのかもしれません。