細胞は量子コンピュータよりも早く計算できる可能性がある
細胞は量子コンピュータよりも早く計算できる可能性がある / Credit:Canva
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細胞は量子コンピュータよりも早く計算できる可能性がある (2/3)

2025.03.31 17:00:33 Monday

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細胞の計算速度は量子コンピューターを超える

細胞の計算速度は量子コンピューターを超える
細胞の計算速度は量子コンピューターを超える / 図1は「生命が紫外線で励起される量子的自由度(量子状態)を使って情報処理を行っている」という研究の全体像を示すものです。ざっくり言えば、 (A)ニューロンのない生物(菌類や単細胞生物など) (B)ニューロンを持つ生物(動物など) (C)人間が作った従来型のクラシカル・コンピュータ (D)ニューロンがない真核生物の細胞骨格 (E)ニューロン軸索内のタンパク質束 (F)将来的な量子コンピュータ ……といった対象を比較しているイメージです。ポイントは、従来は(A)や(B)などの生物における情報処理速度として、「ニューロン発火による1秒あたり数百~数千回の処理(10^3オーダー)」が上限と思われていました。ところが最近の実験結果では、タンパク質繊維(細胞骨格)内にあるトリプトファンなどの“量子発光”を利用した「超放射(スーパーラディアンス)」状態が確認され、これだと1秒あたり10^12~10^13回程度という非常に高速な情報処理が可能になるかもしれない、というのです。 図の中には、紫外線励起によって高エネルギーの光子がトリプトファン分子間を“協調”させる仕組みが描かれているはずで、これが「マルゴリス=レヴィティン速度限界」という量子論的な最短変化時間に迫るほど高速な演算を暗示している、と示唆しています。 (A)(B) では「イオンチャネルや電気的スパイク」による従来の脳神経モデルを想定すると10^3オーダーでしか計算できない。 (D)(E) ではタンパク質の量子的ふるまいを加味すると、その速度が10^12~10^13オーダーに跳ね上がる。 さらにこの図には、(C)既存のコンピュータや、(F)今後発展する量子コンピュータなどもあわせて示されており、「生命がもし本当に“量子的演算”を利用しているなら、人類の築いたコンピュータの限界を再考する必要がある」という問題提起になっています。/Credit:Philip Kurian . Science Advances (2025)

今回の研究では、まずタンパク質繊維を紫外線レーザーで刺激し、そこから放出される極めてかすかな光を高精度で測定するというやり方がとられました。

イメージとしては、暗い部屋に浮かぶ無数のホタルがピタリと息を合わせて一斉に光る瞬間を、高速カメラで捉えるような感覚に近いかもしれません。

実際の測定結果を見ると、タンパク質の分子同士が“超放射”という特殊な状態で協調しながら光を発し、その放出速度が「量子の世界で考えうる最速レベル」に肉薄していることがわかったのです。

これまでは、生体環境のように熱や雑音が多い場所で、量子現象がここまで明瞭に保たれるとは考えにくいとされてきました。

しかし今回の結果は、室温というごく普通の環境下でも、わずかピコ秒(1兆分の1秒)以下の単位で分子同士が連携して光を放つ可能性を示しています。

この結果は先に述べたように細胞のタンパク質繊維が「マルゴリス=レヴィティン速度限界」に近いスピードで状態変化を起こせる可能性を示唆しています。

もし生命がこれほど高速な情報処理を実現しているとすれば、従来の脳神経モデルをはるかに超える“演算速度”を自然に持ち合わせているかもしれません。

そう考えると、この発見がいかに革新的かがわかるでしょう。

なにしろ、量子コンピュータの世界でもなお挑戦的な目標とされる速度に、生物が普通の環境下で到達しているのですから。

今後、こうしたメカニズムを応用すれば、量子計算のブレークスルーや新たなエネルギー利用技術の開発にもつながるかもしれません。

まさに、生体レベルの量子現象がどこまで“本物”なのかを実験的に示す、刺激的な一歩だといえるでしょう。

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