4:ダメージは落ち着くのか、それとも加速するのか

では、今後この傾向は落ち着いていくのでしょうか?
それともさらに加速していくのでしょうか?
専門家や業界団体の分析から、将来の見通しを探ります。
まず全業種的レベルでは楽観的な声が聞こえてきます。
国際労働機関(ILO)の研究では「完全に仕事が消えてしまうケースは一部に留まり、多くの職業ではAIが業務の一部を自動化しつつ人間を補完する形になる」と予測されています。
ILOの世界分析によれば、現在の生成AI技術で直接自動化されるリスクがある全体の約2~4%程度(最大でも5%未満)にとどまり、“完全にAIに取って代わられる”よりも“AIを使いこなせる人が有利になる”方向が強いとされています。
実際、生成AIの導入に伴い企業内で新しい職種(例えば「プロンプトエンジニア」など)が生まれていることも報告されており、テクノロジーに適応することで生き残る道もあると考えられています。
この見方では、クリエイティブ職もAIとの協働によって新たな役割が生まれたり、効率化によって人間にしかできない高付加価値な仕事に専念できるようになる可能性が指摘されます。
実際AIの普及によってクリエイティブ職の雇用枠がゼロになるわけではない……という点については事実でしょう。
しかし多くの絵師たちにとって仕事の減少と収入減少は否定できない現実であり、むしろ今後数年でダメージが加速するとする見方も根強くあります。
アニメ業界の労働組合であるAnimation Guildが経済調査会社と実施した研究では、今後3年ほどで映画・テレビ・アニメ分野の仕事の約21.4%が生成AIによって統合・削減・消滅しうると推計されています。
つまりクリエーター系では短期的には職が減るスピードの方が早く、創出が追いつかない恐れがあるということです。
特に影響が大きいのは翻訳や字幕制作といった職種で、最大で収入の半分以上(56%)が失われるリスクが指摘されています。
さらに生成AIの進化スピードは非常に速く、一部では「数年以内にできないことはなくなる」とまで言われています。
ですが一番の問題は、全ての職種にとってこの悲劇が時間の問題という点にあります。
現在イラストレーターをはじめとしたアーティストに起きている「収入10分の1」のような衝撃は、AIが発展し続ける限り、あらゆる業界に広がり続けます。
生成AIに対して最も耐性が高いと思われていた性産業ですら、ネットを通じて生成AIとのロマンスを楽しむ人の増加傾向がみられます。
世界は既にAIができることを見つけるのが困難だった時代から、AIにできないことを見つけるほうが困難な世界になりつつあります。
今日のイラストレーターの嘆きは、明日のあなたの嘆きです。
料理人も英会話教師もアナウンサーも……クリエイティブ業界を燃やしていた対岸の火は、既に此岸(しがん)に回り込みつつあるのです。
次のセクションでは、ちょっとだけホラーな暗い未来について考察してみます。
さきほど「AIを使いこなす人が生き残る」という僅かな希望が見えてきましたが、暗い未来ではその僅かな希望も影が差しています。