SM好きはメンタル最強? 2,000人調査で判明

研究チームはまずオンライン募集により、スペイン国内の18〜68歳の成人1,907名を集めました(最終有効回答は1,884名)。
参加者はSNSや成人向けグッズ企業のニュースレターなどを通じて募られ、約6割(60%)が「現在BDSMを実践している(あるいは過去に実践経験がある)」と自己申告し、残り4割が「BDSM未経験者」でした。
性別は女性が58%、男性35%、トランスジェンダー/ノンバイナリー等が6%と比較的多様で、性的指向も約53%がLGBTQIA+(主にバイセクシュアル・パンセクシュアル)と、半数以上がいわゆる性的マイノリティに該当していました。
年齢層は中央値が28歳と若めながら、18歳から68歳まで幅広く含まれています。
なおBDSM実践者の内訳を見ると、服従側(サブミッシブ:M側)役が約45%と最多で、スイッチ(27%)、支配側(ドミナント:S側)役(25%)の順でした。
これはBDSMコミュニティ内でも服従願望を持つ人が比較的多いことを示唆しています。
全参加者はビッグファイブ性格検査(外向性・協調性・誠実性・神経症傾向・開放性)や成人の愛着スタイル、拒絶感受性、主観的幸福感(ウェルビーイング)に関する標準化された質問票に回答しました。
BDSM実践者にはそれに加えて、自分のBDSMにおける主な役割(ドミナント/サブミッシブ/スイッチ)やプレイ内容の指向(トップ=加虐志向/ボトム=被虐志向/スイッチ)、そしてBDSM経験の頻度や年数といった項目も尋ねています。
研究者たちは年齢や性別などの背景要因を統計的に統制したうえで、BDSM実践群と非実践群のあいだに人格・愛着・幸福度などで有意差があるかを検定し、さらにBDSM内の特定の役割(例:支配側vs従う側)による心理傾向の違いも分析しました。
その結果、BDSM実践者は非実践者に比べて心理測定の各尺度でより良好な傾向を示すことが明らかになりました。
具体的にはBDSM実践者は一般層よりも以下の特徴が見られました。
①安定型の愛着スタイルが多い(不安定な愛着〔不安型・回避型〕が少ない)。
②外向性(Extraversion)・誠実性(Conscientiousness)・開放性(Openness)のスコアが高い。
③協調性(Agreeableness)は非実践者よりやや低い傾向があった。
④神経症傾向(Neuroticism)が低い。
⑤拒絶感受性(他者に拒否されることへの敏感さ)が低い。
⑥主観的幸福度(ウェルビーイング)が高い。
要するに、BDSM実践者たちは愛着がより安定し、ネガティブな特性が弱い一方でポジティブな性格特性が強いという、従来の偏見に反した非常に機能的な心理プロフィールを持っていたのです。
こうした全体傾向は2013年の先行研究と概ね一致しており、今回それが約1,900人規模の新たな集団でも再現された形になります。
興味深いのは、BDSM内での役割の違いによる傾向です。
全体として「支配する側」すなわちドミナント役の参加者が最も安定した心理的特徴を示しました。
とりわけドミナントは愛着スタイルが非常に安定しており(この傾向は女性ドミナントで顕著)、さらに外向性や誠実性、主観的幸福度が高く、神経症傾向や拒絶感受性が低いという極めて機能的な心理プロフィールを備えていたのです。
一方、「従う側」すなわちサブミッシブ役や両方を担うスイッチ役の人々は、多くの指標でドミナントと非実践者の中間的な値を示しました。
またBDSM経験年数が長い人ほど、これらポジティブな傾向がさらに強まる(例えば拒絶感受性がより低い)ことも確認されました。
さらに解析によって、愛着・性格・幸福度など心理特性どうしの関連構造(心理的構造)は、BDSM実践者と非実践者で大きく変わらないことも示されました。
これはBDSM実践者は特定の特性の平均レベルこそ違うものの、心の基本的な仕組み自体は一般集団と変わらないことを意味します。
言い換えれば、BDSM嗜好の人だからといって特別な心理構造を持つのではなく、一般の人と同じ心の作りを持ちながら平均的にはより適応的な傾向を示すというのが今回の発見なのです。
なお本研究では被験者の多様性を活かし、ジェンダーやセクシュアリティによる違いについても分析が行われました。
その結果、性的指向ではバイセクシュアル・パンセクシュアルの参加者が他の層よりも親密な関係への不安が低い(他者との心理的距離にあまり不安を感じない)傾向があり、トランスジェンダーやノンバイナリー等の参加者は開放性が高くかつ拒絶感受性もやや高い傾向が見られました。
このように交差する属性ごとの特徴は、マイノリティとしてのストレス要因など社会的文脈を考慮する重要性を示唆しています。