科学者たちはカエルのメスが鳴くことをほとんど知らなかった
カエルの鳴き声研究(生物音響学)は、これまで圧倒的に「オス」に偏って行われてきました。
なぜなら、オスは自分の存在をアピールし、メスを惹きつけるために大きな声で鳴き、研究者の耳にもマイクにも簡単に引っかかるからです。
一方で、メスのカエルには声を増幅する声嚢(せいのう)がない種も多いことで知られています。l
仮に鳴いたとしてもその声は小さく、環境音やオスの大合唱にかき消されてしまいます。
このため、例外はあるものの、「一般的にメスは鳴かない」と考えられてきました。
研究者たちも「オスの鳴声」ばかりに注目し、メスの鳴声は録音機材のセッティングや行動観察でも、最初から「聞こえないもの」として扱うことがありました。

そんな中、サンパウロ大学の研究チームは、この無関心な態度に疑問を抱きました。
「本当にメスは鳴かないのか?我々が知らないだけなのではないか?」
こうしてチームは、世界中の文献を対象に、徹底的な再調査を始めます。
調査の対象となったのは、学術論文、学会発表、博士論文、そして一部のフィールドノートまで含めた約3000件におよぶ文献群。
対象言語も英語だけでなく、スペイン語、ポルトガル語、フランス語、ドイツ語など多言語にわたりました。
研究チームはそこから、メスのカエルが明確に鳴いていた記録だけを抽出し、 その種類、状況、行動背景を徹底的に整理していきました。
その結果、29の科に属する112種のカエルが、何らかの形で「メスも鳴く」ことが明らかになりました。
これは、全世界で既知のカエル種(約8000種)のわずか1.4%に過ぎません。
そして研究では、メスの鳴声にいくつかのタイプがあると分かりました。