「ブラックホールに食われる恒星」が明かす宇宙の進化
では、ENTとは何を意味しているのでしょうか。
チームは、ENTの発生源が太陽の3倍以上の質量を持つ高質量恒星であり、それが太陽の1億倍を超える質量をもつ超大質量ブラックホール(SMBH)に接近して引き裂かれた結果であると結論づけました。
つまり、ENTは「巨大な恒星がブラックホールに飲み込まれる瞬間を宇宙スケールで観測した」現象だったのです。

このとき、恒星の物質の一部が重力によって引き寄せられ、光速に近い速度でブラックホールへと落下し、巨大なエネルギーを放出します。
その放出エネルギーは、核融合によって生まれる通常の恒星のエネルギーを遥かに超え、極端に明るく輝きます。
特筆すべきは、その持続時間です。
ENTのフレアは平均で約200日以上続き、超新星とは比べものにならないほどのエネルギーと寿命を持ちます。
これはブラックホールの質量が非常に大きいほど、引き裂かれた恒星の物質がゆっくりと落下し続けるためだと考えられています。
また、ENTが発生した銀河のホスト環境も興味深いものです。
これらの銀河は、今から約80億年前の宇宙に存在していたもので、現在よりもはるかに星形成が盛んで、ブラックホールも活発に成長していた時期にあたります。
このことはENTが単なる一過性の現象ではなく、初期宇宙におけるブラックホールの成長過程の重要な手がかりを提供していることを意味します。
さらに、ENTの発見数はまだわずか3例ですが、将来的な観測によって、ENTの大規模な調査が進めば、ブラックホールと銀河の共進化の謎に迫る鍵となる可能性があるとのことです。