超新星爆発すら相手にならないエネルギー
今回観測された新たな現象「ENT」は、これまで知られていたどの爆発的現象とも異なる性質を持っていました。
研究チームが注目したのは、欧州宇宙機関(ESA)のガイア衛星などで記録された、遠方銀河の中心から放たれた異常に明るく、かつ非常に滑らかな閃光(フレア)です。
これらは1年以上にわたって強い明るさを保ち、まるでブラックホールがゆっくりと恒星を吸い込んでいるかのような持続的かつ穏やかな明滅を示していました。
その中でも特に注目されたのが「Gaia18cdj」と呼ばれているENT現象です。
このENTは、たった1年で太陽100個分の一生涯のエネルギーを放出し、これまで最も強力とされていた超新星の25倍ものエネルギーを記録しました。

ENTの特徴は、単なる明るさではなく、その「長さ」と「なめらかさ」にあります。
通常の超新星は数週間で暗くなってしまうのに対し、ENTは150日以上かけてじわじわと輝き続け、変動の少ない光度曲線を描きます。
この光の滑らかさは、他の突発現象――たとえば活動銀河核(AGN)の変動や磁場によるフレアとは異なる起源を示唆しています。
さらに、ENTの発生源はいずれも銀河の中心付近に位置しており、超大質量ブラックホールとの関係が強く示唆されました。
観測から得られたスペクトルには、水素やマグネシウムの広い輝線が含まれており、これはブラックホール周囲で起きる高温ガスの運動を示すサインでもあります。
ENTが発するエネルギー、発光期間、スペクトル、そして位置――どれを取っても、従来の爆発現象では説明がつかず、残された最も合理的な解釈が「高質量恒星の潮汐破壊(TDE:tidal disruption event)」だったのです。
つまりは、質量の大きな恒星が超大質量ブラックホールによって引き裂かれたことを意味しています。