地中で子育て?残される多くの謎
採集された口内保育中のオスの口の中から見つかったのは、直径1ミリほどの卵が約250個。
それらが細い糸でつながって球形の「卵塊」となっていました。
親魚はこの卵塊を口の中で大切に守り、外敵や乾燥から保護していると考えられます。
口内保育は魚類の中でもそれほど一般的ではなく、特にクダリボウズギスのような地中で生活する魚にとっては、非常に合理的な子育て戦略といえるでしょう。
しかし、この魚の暮らしぶりはまだ謎に満ちています。
たとえば、
・卵が孵化したあと、稚魚はすぐに地中から出ていくのか?
・成魚は昼夜をどう過ごしているのか? 地中にずっととどまっているのか?
・甲殻類との関係は共生なのか、ただの住居利用なのか?
といった基本的な生態情報もまだわかっていません。

研究者たちは今後、甲殻類との関係性や地中の空洞のネットワーク構造を明らかにするため、さらなる調査を進める方針です。
また今回発見された干潟は、震災とその後の護岸工事によって大きく環境が変わった場所でした。
こうした干潟の上部、いわゆる潮間帯と呼ばれる領域は、クダリボウズギスのような希少種をはじめ、多様な生物たちの生息地として知られていますが、同時に人間活動の影響を受けやすい場所でもあります。
一度埋め立てやコンクリート護岸が行われれば、地中に広がる繊細な生態系は二度と元に戻らないかもしれません。
今回の発見は、そうした危機に瀕した自然環境の中に、まだ人知れず生き続ける命があるという重要なメッセージでもあるのです。