地中に暮らす魚を発見!
今回の舞台となる宮城県南三陸町の志津川湾は、2011年3月11日に発災した東日本大震災からの復旧工事で大きく環境が変わりました。
その湾内にある水戸辺川の河口干潟で、研究者たちは偶然にも驚くべき発見をします。
干潟の泥をスコップで掘り返していたところ、深さ40センチほどの地中から美しい魚が現れたのです。
この魚はテンジクダイ科の一種である「クダリボウズギス」とのこと。
体長は数センチ程度と小さく、透明感のある体に赤い色素が浮かび上がる、まるで宝石のような姿をしています。
こちらは水槽に移された個体。

テンジクダイ科は温暖な海を中心に世界に約380種が知られるグループですが、クダリボウズギスの情報はこれまでほとんど記録されておらず、生態は“完全に未知”とされてきました。
チームは2022年6〜7月の調査で、地中の空洞から13匹の成魚を採集。
そのうち4匹は、なんと口の中に卵をくわえていたのです。
この「口内保育」という行動はテンジクダイ科の一部では知られていたものの、これほど北方の冷たい干潟で見つかるとは想定外でした。
これにより、クダリボウズギスはテンジクダイ科として最も北で繁殖する種であることが明らかになったのです。
また地中にある空洞は、自然にできたものではなく、実はテッポウエビやアナジャコといった甲殻類が掘った巣穴である可能性が高いと考えられています。
つまり、クダリボウズギスは甲殻類の巣を“間借り”して生活している可能性があるのです。

さらに興味深いのは、魚たちがこの真っ暗な地中環境をどうやって把握しているのかという点です。
実はクダリボウズギスの体表には「感覚孔」と呼ばれる小さな器官が無数に並んでいます。
これは水の流れや振動を感じ取るセンサーのようなもので、視界の効かない地中でも周囲の構造を把握する“触覚地図”の役割を果たしているとみられています。
まるで、魚版の“地中探知機”とも言えるこの能力が、彼らの奇妙な生態を支えているのです。