アカデミー賞を受賞した衝撃の更生プログラム

1970年代のアメリカでは、都市部を中心に少年犯罪の増加が深刻な社会問題となっていました。
ベトナム戦争後の不安定な経済状況や、家庭の崩壊、学校教育の荒廃などが重なり、特に若年層の暴力事件や窃盗などの軽犯罪が目立つようになっていたのです。
社会全体には「このままでは将来が危ない」「若者を何とか更生させなければならない」という危機感が広がっており、行政も教育もメディアも、効果的な対策を模索している時期でした。
そんな中、1978年に放送されたドキュメンタリー『Scared Straight!(スケアード・ストレート)』が画期的な対策として注目を集めます。
その内容は非常にショッキングなものでした。
番組では、非行に走った10代の少年たちを、ニュージャージー州の刑務所に連れて行きます。
見学前の少年たちはかなり舐めた態度を取っており、「刑務所なんて大したことはない」「可哀そうな大人を見に行くだけだ」などと、軽口を叩いて、中には自分の犯罪歴を自慢げに語る少年もいました。

しかし、刑務所の中に一歩足を踏み入れた瞬間、彼らの態度は一変します。
迎えた刑務官は、笑顔ひとつ見せず、鋭い視線で少年たちをにらみつけながら鉄扉を閉め、その「ガチャン」という音が空気を一気に緊張させました。
案内役の刑務官は受刑者と同じような態度で少年たちと接し、番組内では一人の少年が足を止めると、「Keep moving!(動け!)」と強い口調で叱責する場面もありました。
その一言で少年はびくりとし、肩を震わせながら歩き出しました。
続く廊下では、受刑者たちが檻の中から叫び声を上げ、少年たちに向かって罵声を浴びせ、彼らの名前や外見をからかう場面が続きます。
カメラには、口を真一文字に結び、明らかに顔面蒼白となった少年たちの表情が映し出されており、入場前の軽口や虚勢が完全に消え失せていることがわかります。
この番組は、1979年の第51回アカデミー賞で最優秀長編ドキュメンタリー賞を受賞し、社会的にも大きな反響を呼びました。
刑務所での過酷な現実を見せつけ、子どもたちをビビらせることで、非行に走った少年たちの再犯を予防する。
確かに「直感的には効果的」と感じさせる内容です。
そのため『Scared Straight!』放映後、アメリカ各地で同様のプログラムは次々に導入されていき、一般の学校でもこの刑務所見学が実行されました。
しかし、この直感は、後に科学の前で大きく崩れ去ることになります。