科学的検証が示したのは、まったくの逆効果
2003年、アメリカの研究者アンソニー・ペトロシーノ(Anthony Petrosino)氏を中心としたチームは、「Scared Straight!」を含む複数の少年犯罪抑止プログラムに対して、科学的な検証を行いました。
この研究は、犯罪政策の効果を評価する国際的な団体「キャンベル共同計画(Campbell Collaboration)」によって発表されたもので、9件のランダム化比較試験(RCT)を対象にしたメタ分析です。
この手法では、プログラムに参加した少年たちと、参加していない少年たちを無作為に分け、それぞれのその後の再犯率を比較しています。
その結果は、非常に明確でした。
Scared Straight!に参加した少年は、参加していない少年よりも再犯率が平均で1.7倍に増加していたのです。
これは、予防策どころか、むしろ害を及ぼしていたことを示しています。

なぜこのような逆効果が生まれてしまったのでしょうか?
Campbellの報告によると、まず非行歴のある少年たちにとって、刑務所という極端な環境に入ることは、単に恐怖を与えるだけではなく、受刑者の態度や言葉づかい、社会的立ち位置に対する「接近効果」を生み出す可能性があるとされます。
つまり、暴力的で支配的なふるまいが「本物の男らしさ」や「タフさ」の象徴として受け取られ、少年たちが憧れや尊敬の念を抱いてしまうことがあるのです。
また、その体験を仲間内で「武勇伝」として語ることによって、社会的な承認や注目を得るという報酬構造が生まれ、それがかえって非行行動を強化する結果にもつながります。
一方で、このプログラムが広がる過程で、非行歴のない一般の中高生を対象にしたバージョンも数多く実施されるようになりました。
この層においては、刑務所での体験が逆に強いショックとなり、一部の子どもには不安障害やトラウマ、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの精神的影響を与える事例も報告されています。
実際、キャンベルのレビューでは、Scared Straight!の実施には「潜在的な有害性」があると指摘されていて、プログラムの実施には慎重な対応が求められるとされています。
このように、Scared Straight!は、直感的には「うまくいきそう」な優れたプログラムに見えましたが、実際は非行少年に対しては行動強化を促し、一般の子どもには心理的負荷を与えるという、有害な効果の方が大きかったのです。
ペトロシーノ氏らの報告書は、こうした衝撃的な結論を通じて、「見た目の効果」ではなく「実際の成果」を重視すべきであるという科学的態度の重要性を強調しています。
このように、直感的に正しそうに見える手法が、実際には深刻な悪影響をもたらす可能性があるという事実は、教育・医療・福祉といった他の領域にも深く関係する問題です。
私たちは、感情的な納得ではなく、冷静な証拠によって物事の是非を判断する視点を持つ必要があるのです。
まとめ:思い込みを乗り越える力としての「科学」
『Scared Straight!』は、少年たちを更生させようという善意から始まったプログラムでした。
しかし、善意や正義感があっても、その方法が本当に効果的かどうかは、冷静な検証によって確かめる必要があります。
私たちの日常にも、「直感では効果的に思えるけど、実は逆効果かもしれない」ことがたくさんあります。
たとえば、子どもを叱るとき、感情に任せて怒鳴るのではなく、冷静に何が問題だったのかを対話するほうが長期的には効果的だとする研究もあります。
大切なのは、「自分が正しいと思ったこと」に固執せず、時には立ち止まり、他の視点やデータに耳を傾けることです。
それこそが、思い込みや偏見を乗り越え、よりよい社会をつくるための第一歩なのです。
そしてそのためにこそ、科学の力があるのです。
客観的な証拠や根拠に基づいて物事を判断し、行動すること (evidence-based …) の波が犯罪抑止にも広がってるよと。良いことです。
evidence-based … 、最後の単語は色んなのが入ります。広く知られてるのは医療 (medicine)でしょうか。製薬は二重盲検法や統計手法を駆使し、パスしなければ薬になれずボツです。ほかにも政策立案(policy making)なんかも最近取り上げる方が出てきました。