私たちの宇宙はブラックホールの中で「跳ね返り爆発」で生まれた
私たちの宇宙はブラックホールの中で「跳ね返り爆発」で生まれた / Credit:Canva
quantum

私たちの宇宙は巨大ブラックホールの中で「跳ね返り爆発」で生まれた (2/3)

2025.06.16 18:30:10 Monday

前ページ標準宇宙論の欠けたパズル

<

1

2

3

>

私たちの宇宙はブラックホールの中で生まれた

私たちの宇宙はブラックホールの中で生まれた
私たちの宇宙はブラックホールの中で生まれた / Credit:Canva

宇宙の始まりを『外から眺める』のではなく、“ブラックホールの内側で起きること”を手がかりに内側から解く──という研究チームの発想は上手く機能したのでしょうか?

ブラックホールは星の重力崩壊で生まれますが、その内側(事象の地平面の奥)を一般相対性理論で追うと、必ず密度無限大の特異点で行き止まりになります。

しかしこれは「量子効果は無視できる」という前提付きの結論です。

なぜ特異点では量子効果が無視されることが前提なのか?

特異点定理が「量子効果は気にしなくていい」と豪語できたのは、証明の舞台を“シルクのように滑らかな時空”に限定したからです。そこではエネルギーも運動量も、あたかも連続体の水流のように振る舞うと仮定し、光の束の収束具合やエネルギー条件を粘り強く追い詰めれば、論理はまっすぐ“行き止まり=特異点”に突き当たります。

けれども特異点に近づくにつれて曲率が発散し(時空の曲げ具合が限界なく急カーブになり、紙を一点に折りたたむと無限に尖るようなイメージ)、曲率半径がプランク長より小さくなる頃には量子重力が無視できなくなる、と広く考えられています。

(※プランク長は、物理学で「これより小さい長さを測ろうとすると、もはや現在の理論(一般相対性理論と量子力学)が同時に成り立たなくなる」と考えられている“極限のものさし”でおおよそ1.6×10⁻³⁵メートルとされています。)

にもかかわらず定理は「その極小世界でも滑らかな布地モデルが通用する」と前提して組み立てられているため、量子の揺らぎやパウリの“席取りゲーム”といった離散的・非局所的な効果は数式から最初から締め出されるのです。要するに「量子効果は取るに足らない」のではなく、「量子効果を計算に載せる術がなかったクラシカルな枠組みで勝負した」ゆえに無視せざるを得なかったのです。

──そこへ今回のモデルは量子排他圧という現代的な“圧力”を持ち込み、行き止まりと思われていた特異点の標識をあっさり引っこ抜いてみせた、というわけです。

そこでチームは、極限密度では量子力学が主役に躍り出るはずだとして、電子や中性子などフェルミ粒子が同じ状態に二つ入れないという「パウリの排他原理」を組み込み、重力崩壊を数式レベルで再構築しました。

すると、この量子重力ハイブリッドモデルを解析した結果、驚くべき解が得られます。

圧縮される物質雲は無限密度に達する前に“量子のバネ”で反発し、バウンス(跳ね返り)を起こして外向きの膨張へ転じることが理論的に示されたのです。

言い換えれば、量子力学のパウリの排他原理(同種の粒子を無限に押し込めることはできないという原理)によって、崩壊する物質の圧縮がどこかで止まり、重力崩壊が逆転するのです。

しかも研究チームの解析によれば、正の空間曲率(k>0)と量子排他原理が満たされた条件下では、このバウンスが理論的に避けられないことが示されました。

(※このとき量子排他圧は、一般相対性理論で想定される“強エネルギー条件”を破ります。その結果、古典的な特異点定理(ペンローズ=ホーキング)が前提とする条件が崩れ、特異点を回避できる道が開かれるのです)

研究者たちは「我々は重力崩壊が必ずしも特異点で終わる必要はないことを示しました。崩壊した物質の雲が高密度状態に達した後に反発して跳ね返り、新たな膨張段階へ移行できることを発見したのです」と説明しています。

重要な点は、この跳ね返り(バウンス)の現象が一般相対論の枠内で、なおかつ量子力学の基本原理だけで説明できるということです。

すなわち、特殊な仮説上のエネルギー場や高次元空間など未知の物理を導入せずとも、現在確立している物理法則の範囲内で宇宙の始まりを再現できるといいます。

そして驚くべきことに、このバウンスによって生まれた宇宙は我々の宇宙とよく似た性質を持ち、さらに二段階の加速膨張が自然に実現されることが分かりました。

(※ここで言う2段階は①ビッグバン直後の超高速インフレーション期と②現在進行中のダークエネルギーによる加速膨張期のことです。)

つまり最初の急膨張(インフレーション)といま進行中の加速をどちらも同じ量子反発メカニズムとして自然に導いたのです。

これらは従来、全く別々の要因(インフレーション用の仮想的なエネルギー場と、宇宙定数的なダークエネルギー)で説明されてきましたが、本モデルでは跳ね返りそのものの物理によって両方が統一的に説明されています。

研究者たちも「跳ね返りによって生じた反動が宇宙に急膨張の段階をもたらし、しかもそれは仮定上の未知の場によるのではなく、バウンスそのものの物理によることが分かりました」と強調しています。

また研究チームは「今回得られた解により、バウンスが起こるのは単に可能なだけでなく、正の空間曲率と量子排他原理という必要条件が揃えば避けられない現象であることを示せました」と述べ、宇宙のバウンスが理論上必然的に起こり得ることを指摘しました。

次ページ観測で試される跳ね返り宇宙

<

1

2

3

>

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

スマホ用品

量子論のニュースquantum news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!