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汗をかくように建物を冷やす塗料 / Credit:Hong Li(NTU)et al., Science(2025)
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「汗をかいて」家の中を涼しくする塗料を開発【エアコン電気使用量40%減】

2025.06.23 11:30:48 Monday

人間は暑いと汗をかいて(皮膚の上で蒸発することで)体温を低下させますが、もし建物も「汗をかけたら」どうなるのでしょうか?

シンガポールの南洋理工大学(NTU)は、そんな斬新な発想を元に、画期的な冷却塗料「CCP-30」を開発しました。

この塗料は蒸発冷却を利用しており、汗のように内部に含まれた水分を蒸発させることで、電力を使わずに建物を冷やします。

2年間の実験では、新塗料を用いた建物ではエアコンによる電力消費が30~40%も削減されました。

研究成果は、2025年6月5日付の科学誌『Science』に掲載されました。

This paint ‘sweats’ to keep your house cool https://www.sciencenews.org/article/this-paint-sweats-keep-your-house-cool Passive cooling paint sweats off heat to deliver 10X cooling and 30% energy savings https://techxplore.com/news/2025-06-passive-cooling-10x-energy.html
Passive cooling paint enabled by rational design of thermal-optical and mass transfer properties https://doi.org/10.1126/science.adt3372

「汗をかく」ようにして建物を冷やす新塗料を開発

地球温暖化の進行とともに、都市部ではヒートアイランド現象が深刻化し、建物内の冷房需要が増加の一途をたどっています。

国際エネルギー機関(IEA)によれば、世界の建物の電力使用量の約20%が冷房に使われています。

電力消費が増えれば、CO2排出も増加し、温暖化がさらに進行するという悪循環に陥ります。

この問題を解決する鍵として注目されているのが「パッシブ冷却技術」という、電力を使わず自然の仕組みで建物を冷やす手法です。

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建物を涼しくする塗料 / Credit:Canva

その技術の1つに建物を「冷却する塗料」が存在します。

従来の冷却塗料の多くは「放射冷却」に依存していました。

これは、塗装面から赤外線を放射し、宇宙の寒冷な空間へと熱を逃がす仕組みです。

特に屋根など、空を向いている面では高い効果を発揮します。

しかし、この仕組みには大きな弱点があります。

湿度が高い地域では空気中の水蒸気が赤外線を吸収し、熱が逃げにくくなるため、効果が大きく低下するのです。

また、放射冷却は空を向いた面に限られるため、ビルの側面などでは期待されるほどの効果を発揮できません。

そこで南洋理工大学は、新たな冷却塗料「CCP-30」を開発しました。

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蒸発冷却を利用した新塗料 / Credit:Hong Li(NTU)et al., Science(2025)

この塗料の最大の特徴は、放射冷却・蒸発冷却・太陽反射という三つの冷却メカニズムを同時に備えている点です。

特に注目できるのは、「蒸発冷却」を採用している点です。

CCP-30は、セメントを基盤とした構造にナノ粒子を組み込んだ多孔質素材で、水分を塗料の内部に、重量の約30%まで保持できます。

そして吸収された水分は時間とともに蒸発し、その際に表面の熱を奪うのです。

これはまさに人間が汗をかいて体を冷やすのと同じ仕組みです。

また、水分を保つために塗料には微量のポリマーと塩分が加えられており、これがヒビ割れ防止や長期的な水分保持に貢献しています。

空気中の湿度や雨から水分を吸収し、自己補水機能を持つため、長期間にわたり安定した冷却性能を発揮できるのです。

さらにこの塗料は、88〜92%の太陽を反射し、95%の熱を赤外線として放出する能力も持っています。

では、実際に新しい塗料を用いると、どれだけの冷却効果があるのでしょうか。

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