「ひらめき」の根源は不規則な「ゆらぎ」

今回の研究によって、「短時間でも、少し深い睡眠(N2睡眠)に入ることが、ひらめきを引き出す鍵である」可能性が示されました。
これまで広く知られていた「ウトウトするような浅い眠りが創造的なひらめきを促す」という説に対して、全く新しい見方を提示する結果です。
なぜ今回、このように以前の研究とは異なる結果になったのでしょうか。
研究チームはその理由のひとつとして、今回使われた「問題」の性質が影響した可能性を指摘しています。
以前の研究では、浅い眠り(N1睡眠)が数学的な問題解決に有効だと報告されましたが、今回の課題は視覚的な問題でした。
つまり、問題の種類によって、必要とされる睡眠の深さや脳の働きが異なるのかもしれません。
今回の研究が明らかにしたもう一つの重要なポイントは、深い睡眠が脳の中を整理整頓している可能性です。
私たちの脳は、眠っている間に一日の情報を整理し、記憶として定着させたり不要な情報を取り除いたりしています。
特にN2睡眠のときには、脳内でシナプス(神経細胞同士のつながり)が調整され、頭の中が一旦すっきりと整理されると考えられています。
その結果、目覚めた時にはまるで「頭がリセットされたような状態」になっている可能性があります。
この状態で再び問題に取り組むことで、私たちはそれまで気づかなかった隠れた答えを見つけ出しやすくなるのかもしれません。
さらに研究者たちは、脳波に現れる「傾き」という新しい指標が、この脳内の整理の度合いを示す可能性を指摘しています。
脳波が規則的な波ではなく、不規則でランダムな状態(傾きが大きい状態)になると、脳内の情報整理がより活発になり、目覚めた後のひらめきを促しているのではないかと考えられるのです。
「ゆらぎ」のような不規則な脳波が「ひらめき」を生む理由
私たちの脳は起きている間、たくさんの情報を取り込み続けています。その中には役立つ情報もあれば、あまり役に立たない情報も含まれています。そのままでは、脳の中は情報でいっぱいになり、混乱してしまいます。そんな脳内の混乱を整理する重要な時間が「睡眠」なのです。
眠っている間、脳は昼間に取り込んだ情報を整理し、不要な情報を取り除き、大切な情報だけを残します。特に「深い眠り」(専門的にはN2睡眠)に入ると、脳の中の整理作業が本格化すると考えられています。
ここで面白いのが、脳の働きが活発になって情報を整理するとき、脳波が「規則的な波」ではなく、「ゆらぎ」のようなランダムで不規則なパターンになることです。この不規則な脳波の状態を専門的には「スペクトルスロープが急になる」と表現しますが、簡単に言えば、脳があえてランダムで不規則な状態になることで、自由に情報を動かしやすくしているのです。
このような状態になると、脳は思い切って不要な情報を取り除き、本当に役立つ情報を新しい形でつなぎ直します。そのため、目覚めた後には今まで気づかなかった視点やアイデアに突然気づき、「ひらめき」が生まれることがあります。
つまり、睡眠中の脳波の不規則な「ゆらぎ」は、脳内の整理作業を助け、目覚めた後の「ひらめき」を生み出すための大切な準備をしている痕跡の可能性があるのです。睡眠を大切にすることで、私たちはもっと豊かな発想や問題解決の力を手に入れられる可能性があるのです。
日常生活の中でも、「短い昼寝をすると頭がすっきりして、新しいアイデアが浮かんだ」という経験を持つ人は少なくありません。
今回の研究は、そうした経験を科学的に裏付ける可能性があります。
現代社会では、多忙な毎日の中で睡眠が十分にとれない人が増えていますが、今回の研究は、睡眠を軽視せずに、積極的に短い昼寝を取り入れることが、問題解決やクリエイティブなアイデアを生み出すために役立つ可能性を示しています。
今後は、睡眠をもっと戦略的に活用して、より豊かな発想力や創造力を手に入れることができるかもしれません。
浅い眠りであっても深い眠りであっても困ったときはとりあえず寝たほうがいいということに変わりはないと。