深い睡眠が「ゆらぎ」を起こしている

浅い眠りと深い眠り、ひらめきを呼ぶのは一体どちらなのでしょうか?
その答えを得るため研究者たちはまず、若者90人にある簡単なゲームをプレイしてもらいました。
これは画面上を動くたくさんの点を見ながら、その動きに応じてボタンを押すというシンプルな課題でした。
しかし、実はこのゲームには「隠された近道」が仕組まれていました。
この「近道」に気づけば、ゲームの難易度が急に下がり、簡単に正解できるようになっています。
ただし参加者にはこの近道の存在は一切知らされておらず、自分自身で突然「あ、これだ!」と気づくかどうかが試されました。
参加者は最初にしばらくゲームに挑戦した後、20分間の短い昼寝をとりました。
その間、研究者は参加者の脳波を測定し、眠りの状態を詳しくチェックしました。
そして、完全に眠っていない状態(起きていたグループ)、浅い眠り(N1睡眠)の状態、もう少し深い眠り(N2睡眠)の状態という、3つの睡眠状態のどれに入ったかを分類しました。
昼寝の後、参加者は再びゲームに挑戦しました。
果たして昼寝の後、「近道」に気づいた人はどのくらいいたのでしょうか?
結果を見ると、昼寝をとった人たちの約70.6%がゲームの隠れた近道に気づくことができました。
特に重要だったのは、眠りの深さによって大きな差が出たことです。
N2という深い眠りに到達したグループの参加者では、実に約85.7%もの人が「アハ!」とひらめきを体験して、近道を発見しました。
一方、浅い眠り(N1)の人では約63.6%、まったく眠らず休憩していた人では約55.5%と、深い眠りのグループに比べて低い結果でした。
つまり、従来よく言われていた「ウトウトした浅い眠りがひらめきを促す」という考え方とは異なり、「もう一段階深い眠り(N2睡眠)」のほうが明らかにひらめきを生み出しやすかったのです。
さらに興味深いのは、研究者たちが参加者の脳波を細かく分析した結果、ひらめきを得るかどうかを予測する重要な指標を発見したことです。
それは脳波の中に現れる「波」ではなく、脳波全体に見られる「傾き」(スペクトルスロープ)という特徴でした。
簡単に言えば、睡眠中の脳活動が規則正しい波ではなく、不規則でランダムな活動になっているほど、この傾きが大きくなります。
そして、この「傾き」が大きければ大きいほど、目覚めた後に「ひらめき」が起こりやすかったのです。(※考察は次ページを参照)
この結果から、脳が深い眠りの中で情報を整理整頓し、新たな発想を生み出すための準備をしている可能性が示唆されます。