日本人は「お酒に弱い」の先にあった3つのタイプ

遺伝子の違いは単なるお酒の強弱意外に何を隠していたの?
この謎を解明するために研究者たちはまず、20歳代の健康な日本人男女429名を対象として集めました。
研究では、体質による吸収や代謝速度の差を排除するため、参加者全員に同じ量のアルコールを飲ませる代わりに、静脈から直接アルコールを一定量注入するという方法を採用しました。
こうすることで、誰もが全く同じ濃度のアルコールを体内に保つことができるのです。
参加者たちはアルコール投与後、「体がしびれる」「眠くなる」「気分が高まる」といった酔い特有の症状がどの程度出たかをアンケート形式で記録しました。
すると驚いたことに、同じ量のアルコールを摂取したにもかかわらず、人によって酔いの強さや感じ方に明確な差が現れたのです。
さらに詳しく分析したところ、「非常に強く酔うタイプ(タイプ1)」、「最初はそれほど酔わないが徐々に症状が現れるタイプ(タイプ2)」、「なかなか酔わないタイプ(タイプ3)」という、特徴の異なる3つのグループに分類できることが分かりました。
タイプ1の人は、少量のアルコールでも急激に顔が赤くなり、めまいやふらつきなど強い症状を感じます。
タイプ2の人は、ある程度までアルコールを摂取しても特に大きな変化はありませんが、量が増えるにつれて徐々に酔いを実感し始めます。
一方、タイプ3の人はかなりの量を摂取しても目立った症状が現れにくく、酔った実感があまりないという特徴が見られました。
次に研究者たちは、この3つのタイプに遺伝子がどのように関連しているのかを、お酒の酔い方に関わる遺伝子として以前から注目されていた「ALDH2」と「ADH1B」という2つの遺伝子を対象に調べました。
するとこの3タイプと、アルコール代謝に関与する遺伝子(ALDH2およびADH1B)の遺伝型が統計的に有意に関連していることも明らかになりました。
具体的には非常に強く酔うタイプ(タイプ1)は、は、ALDH2遺伝子の変異型(ALDH22)が最も大きく影響を与えており、飲酒後の早い段階(30分後)から強く症状が現れます。
一方、最初はそれほど酔わないが徐々に症状が現れるタイプ(タイプ2)では、ALDH22もある程度存在しますが、特にADH1B遺伝子の変異型(ADH1B2)を最も高頻度で持つタイプであり、飲酒開始直後ではなく、時間が経つにつれて症状が現れるという特徴を持っています。
そのため、このタイプは飲み始めはあまり症状が出ないものの、時間が経つにつれて徐々に酔いの症状が顕著になります。
そしてなかなか酔わないタイプ(タイプ3)の場合は、ALDH22の保有率が比較的高く、ADH1B*2の頻度もタイプ2ほど高くないという遺伝子型の組み合わせを持っており、全体としては症状が軽く、なかなか酔わない特徴を示しています。
そのため、このタイプはアルコール摂取後も症状が現れにくく、お酒に強い体質と考えられます。
この結果は、普段何気なく観察されているお酒の強さの違いを科学的に初めて明確に裏付けるものとなりました。