多くの人が陥るさまざまな投票判断に関する研究
参議院選挙が近づく中、SNSでは候補者の発言や政党のスローガンが日々拡散され、ネット上の空気感が次第に「この人が勝ちそう」「この政党が良さそう」という“印象”に染まりつつあります。
しかし、こうした空気に流されて投票してしまう行動には、注意が必要です。実は私たちの投票判断には、心理的な「思考のショートカット(heuristic)」が大きく影響していることが、数々の研究で明らかになっています。
知名度や雰囲気で判断してしまう「ヒューリスティック投票」
2001年に発表された政治心理学者 Lau & Redlawsk の研究では、有権者の多くが候補者や政党に関するすべての情報を持っていない状況下で、「党派」「知名度」「人柄」といった簡略化された手がかり(ヒューリスティック)を使って投票判断を下していると報告されています。
このような判断方法は必ずしも間違いとは言えませんが、情報が不十分なまま感覚的に投票をしてしまうことで、結果として自分の利益や価値観に反する政党や候補者を選んでしまうリスクをはらんでいます。
「バンドワゴン効果」と“当選しそうな人”への投票
さらに、2013年の Kam & Zechmeister による研究では、候補者の知名度や「当選しそう」という世論調査結果、ネット上の盛り上がりといった“雰囲気”が、実際の投票先に強く影響することが実証されました。これは「バンドワゴン効果」と呼ばれるもので、「みんなが選びそうだから自分もそうする」という心理が背景にあります。
たとえその候補者が自分の生活や関心とは関係のない政策を掲げていたとしても、「多数派に属したい」「人気の波に乗りたい」という感情が判断を支配してしまうのです。
SNSが生む“偏った判断”の構造
現在のようにSNSが主な情報源になると、さらにやっかいな現象が起こります。それが自分の興味関心に合った投稿ばかりが表示される「エコーチェンバー現象」と、自分の考えと一致する情報だけを信じ、反対意見を無視する「確証バイアス」です。
2022年に発表されたWischnewskiの論文では、こうしたSNS上の環境が、合理的な判断力を損なわせ、思想的に極端な発言やデマ情報に流されやすくすると警告しています。
私たちは「自分で考えて投票している」と思っていても、実際にはアルゴリズムと感情に操作された投票をしてしまっている可能性があるのです。
情報はあふれているのに、「調べる余裕」がない
こうした研究を踏まえると、「もっと冷静に情報を調べてから投票しましょう」と言いたくなりますが、実際にはそれが難しいことも事実です。候補者の政策を読み込んだり、過去の発言を比較したりするには、膨大な時間と労力がかかります。
だからこそ、多くの有権者は「とりあえず有名な人に」「なんとなく印象がいいから」といった簡便な判断に流れてしまうのです。そして、その“なんとなく”が積み重なることで、社会全体の方向性が大きく変わってしまうこともあります。
では、そうした現実を踏まえた上で、私たちはどうすれば「納得のいく一票」を投じることができるのでしょうか?