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わかっていても戻れない!「戻る」行為を忌避する人間の不思議な心理

2025.07.27 21:00:08 Sunday

降りる駅通り過ぎてしまったとき、このままでも目的地に着けるけど戻った方が少ない乗り換えで早く着けるとしたら、あなたは電車を降りて一度前の駅に戻る行為ができるでしょうか?

あるいは、仕事で資料をまとめている途中でもっと簡単なまとめ方に気づいたとき、やり直した方が作業が結果的に早く済みそうだとして、今の作業を捨ててやり直すことができるでしょうか?

おそらく多くの人は、戻ってやり直すよりはこのまま進めよう、と考えるのではないでしょうか。

カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)の行動マーケティングを専門とする心理学研究者クリスティン・チョー(Kristine Y. Cho)氏らの研究チームは、このような「戻ってやり直すことへの抵抗感」が私たちの意思決定にどう影響しているのかを4つの実験から調査しました。

すると、人は効率や合理性に関係なく、「戻る」という行為自体に強い忌避感を持っており、不合理な判断をしてしまう傾向が見えてきたのです。なぜ人はそんなに「戻る」ことを嫌うのでしょうか?

この研究の詳細は、2025年5月号の科学雑誌『Psychological Science』に掲載されています。

Scientists reveal a widespread but previously unidentified psychological phenomenon Scientists reveal a widespread but previously unidentified psychological phenomenon https://www.psypost.org/scientists-reveal-a-widespread-but-previously-unidentified-psychological-phenomenon/
Doubling-Back Aversion: A Reluctance to Make Progress by Undoing It https://doi.org/10.1177/09567976251331053

合理的な判断を阻む心理効果

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たとえば、あなたが登山をしていると想像してみてください。

山頂にある展望台を目指して登っていたところ、分岐を見落としてしまい、少し遠回りの道を進んでしまったと気づきます。

その時点で、現在地から先へ進むルートでも山頂にはたどり着けますが、急な登り坂が続くうえに、到着まで1時間以上かかってしまうことがわかっています。

一方で、いったん20分ほど引き返して正しい分岐に戻れば、よりなだらかで距離も短いルートがあり、そこからなら40分で山頂に到着できます。

つまり、「戻ればより楽なルートで早く着ける」ことが分かっているのです。

でも、実際にその場に立たされると、多くの人が「ここまで来たのに戻るなんて…」と感じてしまうのではないでしょうか。

20分の引き返し時間込みで考えても到着時刻が早くなるのに、「戻る」という行為そのものに抵抗を覚えてしまう──そんな不思議な心理に着目したのが、アメリカ・カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)の研究者たちです。

彼らは、あえて不利な道を選んでしまう人の行動を実験で再現し、「やり直せば効率がよいと頭でわかっていても、感情的にそれができない」心理のメカニズムについて調査を行ったのです。

これまでも、人がいまの選択に固執してしまう傾向は、心理学でたびたび指摘されてきました。

たとえば「現状維持バイアス(status quo bias)」とは、「いまの選択肢を変えるのは不安だから、このままでいこう」と無意識に思ってしまう心理のことです。

また「埋没費用の誤謬(サンクコストの誤謬, sunk cost fallacy)」という考え方もあります。

これは、コンコルド効果という呼び方の方が有名かもしれませんが、どう考えても続けると損失の方が大きくなる状況に対して「ここまでお金や時間をかけたのだから、もったいなくてやめられない」と過去の投資に引きずられて、やめる決断ができなくなる心理のことです。

ただし、これらの理論は「やめる(撤退する)」決断に対するもので、「引き返す」という行動に対する心理的抵抗はうまく説明できていません。

カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)の研究チームは、こうした「過去の投資を惜しむ」理由だけでは説明しきれない、人が「後戻り」することそのものに抱く抵抗感に着目しました。彼らは、「もしかすると人は、“戻る”という行為自体を避ける傾向があるのではないか」と考え、その仮説を検証するために4つの実験を行いました。

実験に参加したのは、アメリカ国内から集められた合計2524人の成人です。

最初の実験では、仮想現実の空間で参加者に道を選ばせる課題を行いました。

目標地点に向かう途中で、「今来た道を少し戻れば、より短いルートを通れる」という情報を提示します。

しかし、実際には多くの人がその近道を避け、遠回りでも前に進み続ける道を選ぶ傾向が見られました

この結果だけでも、人が“引き返すこと”に強い抵抗を持っている可能性が示唆されますが、研究はここで終わりません。

次の実験では、単語を作る課題を用いて、身体的に戻る必要がない状況でも“やり直す”と感じるだけで選択に影響が出るかを検証しました。

参加者は「Gから始まる単語を40個書き出す」という課題を与えられ、10個終えた時点で「Tから始まる単語を30個作る方が簡単で速く終わる」という提案をされます。

ただし一部の参加者には「これまでの10個は無効になり、やり直しになります」と伝えました。

すると、「やり直し」と表現されたグループは、より効率的であると分かっていても、新しい課題に切り替えるのをためらう傾向が顕著に見られました

これらの実験は、たとえそれが有益な選択だったとしても「戻ること」や「やり直すこと」そのものに対して、人が直感的に強い嫌悪感を抱くことを明確に示しています。

なぜ人は「戻る」ことにそこまで抵抗があるのでしょうか?

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