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わかっていても戻れない!「戻る」行為を忌避する人間の不思議な心理 (2/2)

2025.07.27 21:00:08 Sunday

前ページ合理的な判断を阻む心理効果

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引き返せば早くゴールできるのに、人は前進を選んでしまう

今回の研究では、さまざまな実験を通して、人が「戻ってやり直す」ことに対して強い抵抗を示す傾向があることが明らかになりました。

同様の傾向は、買い物のシミュレーション実験でも確認されました。

この実験では、参加者が仮想ショッピングモール内の店舗を移動しながら、特定の商品を探して買い物を進めていくという課題が与えられました。途中で買うべき商品が新たに追加されるという設定で、その商品がすでに立ち寄った店舗に確実にあることが明示された場面でも、多くの参加者はその店に引き返すことを避け、まだ訪れていない店舗に進もうとしました。

つまり、「戻れば確実に商品が手に入る」と分かっていても、「一度通った道を戻る」という行為自体を避ける傾向が見られたのです。

これは、先に進む店舗でその商品が見つかる保証はまったくないにもかかわらず、あえて不確実な道を選ぶという非合理的な判断です。

「埋没費用の誤謬(sunk cost fallacy)」は、失敗したプロジェクトなどから撤退して「やめる」決断ができないというものですが、今回の場合は単に戻った方が効率的という場面で、「戻る」という判断ができない心理を示しており、いわゆるコンコルド効果のような心理状態とは異なります。

これは単に“後ろに戻る”という行為そのものに対する忌避感が中心なのです。

研究チームはこうした新たに発見された心理傾向を「引き返し回避(doubling-back aversion)」と名付け、戻るという行為への忌避感が合理的判断に影響を及ぼす例として、今後さらに詳細な検証が求められると指摘しています。

研究者たちは、この傾向がさまざまな意思決定の場面で大きな影響を及ぼしていると考えています。

たとえば、書きかけのレポート、あるいはイラストや小説のようなものでも致命的な間違いがあり、最初から書き直した方が早く作業が終わるという場合でも、それができず細かい修正を繰り返して逆に時間を無駄にしてしまう。

組み立て家具の手順を間違えていて、一度バラしてやり直した方が楽な場合でも、そのまま強引に進めてしまう。

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この現象は日常生活のあらゆる場面で見られます。また山岳遭難などでも影響している心理効果だと考えられます。

研究チームは、この現象の根底にある認知的および感情的メカニズムについて、次のような考察をしています。

  1. 「進んだ分だけ前進した」と感じる直線的な進捗観
    人は行動の進捗を「距離」や「直線的な経路」で評価する傾向があります。このため、戻るという行為は「進歩の否定」や「無駄な足踏み」として直感的に捉えられてしまい、心理的な抵抗が生じます。

  2. 自己効力感や決断の正当性への脅威
    後戻りするという決断は、「自分の過去の選択が誤っていた」という事実を受け入れる必要があります。これは自己効力感(自分の判断への自信)を脅かし、恥や敗北感といった否定的な感情を引き起こす可能性があるため、無意識に回避されがちです。

この心理は、後戻りが物理的に困難だったわけではなく、合理的に考えれば「戻った方が確実に利益を得られる」状況でも示されているため、この傾向が合理性ではなく感情に強く左右されていると指摘しています。

今後の課題として、研究チームは「どのような状況で人はこの心理バイアスを乗り越えられるのか」を探る必要があるとしています。たとえば、「後戻り」が恥ずかしい、無駄に見えるという文化的背景や、自尊心との関係なども検討すべきでしょう。

また、この研究は教育やビジネス、都市計画など、さまざまな分野での応用も考えられます。たとえば、経路が複雑な施設の案内表示を工夫したり、失敗からのやり直しを前向きに捉える教育を行うことで、人々の判断ミスを減らすことができるかもしれません。

一見単純に思える「戻るか、進むか」の選択には、私たちの意思決定を揺さぶる深い心理メカニズムが隠されているのです。

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わかっていても戻れない!「戻る」行為を忌避する人間の不思議な心理 (2/2)のコメント

ゲスト

ギャンブルとか戦争がまさにこの心理だよね
今までのコストや犠牲を取り戻そうとさらに出血を増やす悪循環

ゲスト

戻れば一つ、進めば二つ、ですから。
私は進む方を選びたいと思います。

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