肥満は“意志”や”自己管理”だけの問題ではない!
私たちは長い間、「太るのは自己管理ができないから」「食べ過ぎるのは意志が弱いから」と考えがちでした。
実際に、健康指導や医療現場でも「摂取カロリーを減らし、もっと運動する」ことが指導の中心とされてきました。
たとえば、イギリスのNHS(国民保健サービス)では、減量プログラムの多くがこのアプローチを基礎としてきました。

しかし現在では、肥満は単なる生活習慣の問題ではなく、“慢性で再発性の病気”であると広く認識されています。
まるで糖尿病やうつ病のように、一時的な対処ではなく、長期的かつ包括的な支援が必要な医学的状態なのです。
そしてイギリスでは、成人の約4人に1人(26.5%)、そして10〜11歳の子どもでは5人に1人(22.1%)が肥満とされています。
この問題によって国が被る社会的・経済的な損失は、年間約1260億ポンド(約25兆円)にものぼります。
健康リスクとしても、心疾患、2型糖尿病、関節障害、がんの一部などとの関連が確認されています。
では、なぜこんなにも多くの人が太ってしまうのでしょうか?
その背景には、複雑で多層的な要因が存在します。
まず、生物学的な側面としては、遺伝子やホルモンバランスの影響が大きく関与します。
たとえば、満腹を感じさせるホルモン「レプチン」の働きが鈍っていたり、脳の報酬系(快感を感じる部位)が過敏に反応したりすることで、普通の人よりも食欲を抑えることが難しいのかもしれません。
さらに、心理的要因も見逃せません。
うつ病や不安障害、過去のトラウマなどが過食につながることは、科学的にも明らかにされています。

そして、もっとも見落とされがちなのが社会環境の影響です。
都市部では、栄養価の低い高カロリーな食品(超加工食品)がどこにでも売られ、しかも安価です。
歩く代わりに車で移動し、仕事も余暇もスクリーンの前で過ごすライフスタイルが当たり前になっています。
このような「肥満を促進する環境」は、特に貧困地域に顕著です。
生鮮食品が手に入りにくい「フードデザート」と呼ばれる地域では、選択肢そのものが極端に限られています。
たとえば、近くのスーパーに並ぶのは冷凍ピザやスナック菓子ばかりです。
そんな環境で「もっと野菜を食べなさい」と言われても、実行は困難です。
つまり、肥満は「頑張れば防げる」ような単純な話ではなく、人間の脳、体、社会の構造が引き起こす総合的な現象だといえるでしょう。
では、そのような影響がある中で、肥満の人が痩せるようどのようにサポートできるでしょうか。