1960年代に開発された新しいアルファベット「ITA」とは?
英語は、世界で広く使われる一方で、学習者泣かせの言語でもあります。
その理由のひとつが綴りと発音の不一致です。
例えば、同じ「i(アイ)」という音が “eye” など20種類以上の綴り方で表されます。
また、”through”、”though”、”thought” のように文字の並びが似ていても発音が全く異なる単語も少なくありません。
この複雑さを最大の学習障害と考えたのが、保守党議員のジェームズ・ピットマン氏でした。
速記法の発明者アイザック・ピットマンの孫である彼は、1953年の議会で「英語の不合理な綴りこそが子供の読みの習得を妨げている」と指摘。
その解決策として提案したのが、英語の発音を1音素に1文字で対応させた新しいアルファベットでした。
こうして誕生したのがITA(Initial Teaching Alphabet)です。

Initial Teaching Alphabet」 / Credit:Wikipedia Commons
ITAは英語の約44音素にそれぞれ対応する43〜45文字で構成され、既存の26文字に加え、逆向きや組み合わせ記号、特殊な合字が追加されました。
例えば、”n” に “g” を組み込んだ文字(ng音)や、”t” と “h” が合体した文字(th音)、”ae” が一体化した記号(æ音)などです。
すべて小文字で書かれ、発音と文字の対応が直感的になるよう工夫されていました。
ITAの狙いは、児童がまず1音素に1文字を対応させた表記で素早く読みを覚え、その後7〜8歳頃に標準のアルファベットへ移行することでした。
初期段階の読み速度向上が約束されれば、その後の学習全体にも良い影響があると考えられていたのです。
導入は1959年から実験的に始まり、1966年には英国158の教育当局中140が少なくとも1校でITAを採用しました。
ただし全国統一カリキュラムはなく、導入の可否は校長や教師の裁量に任されていました。
そのため同じ学校内でも一部クラスだけITAを使用するという不統一な状況も多く見られました。
では、この新しいアルファベットはどのような影響をもたらしたのでしょうか。