ドローンのジレンマに挑んだSiFly社の大型ドローン
まず、ドローンの飛行時間について一般的な認識を確認しておきましょう。
私たちが日常的に目にするドローン、たとえば空撮や農薬散布、物流などに使われる多くの機体は、平均で20分から40分程度しか飛行できません。
その原因は主に「バッテリー容量と重量のトレードオフ」にあります。
バッテリーを大きくすれば長く飛べますが、そのぶん機体が重くなり、推進力を多く使ってしまいます。
逆に機体を軽くすると今度はバッテリー容量が足りなくなり、飛行時間が短くなるというジレンマが存在します。
この「限界」に挑んだのが、SiFly社の開発チームです。
彼らは、これまでの航空工学の常識を覆すため、さまざまな先進技術をQ12に組み込みました。
最大の革新は、電気自動車(EV)にも使われる21700リチウムイオンセルを用いた高密度バッテリーパックの採用です。
これにより、従来よりも多くの電力を蓄えつつ、過熱や劣化のリスクを抑えた安全な運用が可能となりました。
さらに、大型のローター(プロペラ)を搭載し、空気抵抗を最小限に抑えつつ、推力効率を大幅に向上。
この設計により、同クラスの電動ドローンと比べて、4倍の飛行時間、10倍の飛行距離、5倍のペイロード(積載量)を実現しています。
加えて、機体から発せられる騒音は同クラス機体のわずか10分の1。
これにより、住宅地や医療施設付近など静音性が重視される場所でも、実用性が飛躍的に高まりました。
こうした先進的な技術の数々は、SiFlyが掲げる「ドローンを社会のインフラへ進化させる」という理念のもとで一体化され、航空工学の限界を突破する革新機となりました。
そして、こうした革新の成果がついに“実績”として結実したのが、今回のギネス世界記録です。
次章では、実際にどのようにしてこの記録が達成されたのか見ていきましょう。