これまでで最も高解像度の単一原子画像
これまでで最も高解像度の単一原子画像 / Credit:Canva
physics

これまでで最も高解像度の単一原子画像 (3/3)

2025.08.26 18:00:55 Tuesday

前ページ原子の『震える姿』を捉えた新技術

<

1

2

3

>

『熱の指紋』で材料が進化する

今回の研究の最大の成果は、理論だけで予測されてきた「ファゾン」という特別な原子の揺れを、世界で初めて原子一つひとつの動きとして捉えることができた点にあります。

科学の世界では、理論で予測された現象を実験で直接見ることができると、その現象が本当に存在することを示す決定的な証拠になります。

これまでは、ファゾンという現象は「理論上は起こるはず」と考えられていましたが、実際に原子レベルでの証拠を誰も持っていませんでした。

今回、原子が振動する様子を明確に捉えたことで、科学者たちは「ファゾン」という新しいタイプの振動が間違いなく存在すると確信できたわけです。

この研究成果のすごさを例えるならば、「熱の指紋」を読み取る技術が生まれたようなものです。

もちろん、ここで言う「指紋」は比喩的な表現ですが、私たち一人ひとりが持つ指紋がその人を特定する手がかりになるように、原子の揺れ方にもそれぞれの物質や構造に特有のパターンがあります。

今回の新技術によって、その微細で特別な揺れのパターンをはっきりと描き出すことが可能になりました。

言い換えると、これまでは目に見えなかった原子の小さな揺れを「地図」のようにはっきりと示すことで、熱や電気の性質を決める非常に重要な情報を得られるようになったのです。

なぜ、この「熱の指紋」を知ることが重要なのでしょうか。

物質の性能は、原子がどのように配置されているか(構造)だけでなく、その原子がどう揺れているかという「振動の性質」にも大きく左右されます。

原子が小さく揺れる動き方が変われば、物質の熱の伝わり方や電子が動くスピードも変化します。

これまでの材料開発では、「どの原子をどこに並べるか」が中心でしたが、これからは「原子をどのように振動させるか」という視点も重要になるのです。

研究チームは今後、この新たに得た技術を使って、材料の中に存在する「欠陥」や「境界部分」が原子の振動にどのような影響を与えるのかを詳しく調べようとしています。

物質には必ずと言っていいほど、何らかの小さな欠陥や境界部分が存在します。

これまではこうした欠陥や境界が、熱や電気をうまく伝える妨げになることは知られていましたが、実際に原子がどのようにそこで揺れ、どのように悪影響を及ぼしているのかを直接見ることは困難でした。

しかし今回の技術を使えば、「なぜ特定の場所だけ熱や電気が流れにくいのか」を原子レベルで詳しく調べることが可能になります。

このようにして得られる情報を活用すれば、電子の流れや光の性質を細かく制御して、これまでにはなかった性能を持つデバイスを作り出すことができるかもしれません。

具体的には、コンピューターの処理速度を飛躍的に高める可能性を秘めた「量子コンピューター」や、現在よりもはるかに少ないエネルギーで動作する電子機器(省エネルギー型エレクトロニクス)、非常に小さなサイズでわずかな変化を精密に感知するナノセンサーなど、さまざまな最先端技術への応用が考えられます。

このように「原子の振動を操る」という新しいアイデアは、まさに材料科学や技術開発の新時代を切り開く重要な鍵になるでしょう。

今回の研究は、これまで理論的な予測にとどまっていた微小な世界の振動現象を実際に目に見える形で確認し、その重要性を示したという意味で、科学史に残る大きな出来事です。

研究者たちは「震える原子」の姿をはじめて明確な「映像」としてとらえることで、私たちがまだ見ぬ未来のテクノロジーへの新しい扉を開いたのです。

<

1

2

3

>

これまでで最も高解像度の単一原子画像 (3/3)のコメント

ゲスト

で、その画像はどこにあんねん

ゲスト

いや写真ないんかい

Phason

フェイゾン

コメントを書く

※コメントは管理者の確認後に表示されます。

0 / 1000

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

物理学のニュースphysics news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!