悪態も使いようで助けになる

今回の研究から得られた重要な発見のひとつは、「悪態をつくと力が出る」という現象が偶然や気のせいではなく、科学的に確かなものであることを改めて証明できた点です。
これまでも同じような実験は行われていましたが、今回の研究でも結果が再現され、悪態によって握力が約1.4kgほど高まることが再確認されました。
科学の世界では、一度の実験結果だけではまだ確かなこととは言えず、別の研究者が同じ実験をして同じ結果を出すこと(追試)がとても重要です。
今回の研究がその追試に成功したことで、「悪態が身体能力を一時的に高める効果がある」という考え方がさらに強く支持されることになりました。
もう一つの新たな発見として、悪態をついた時に参加者の感情や意欲がはっきりと高まることが示された点があります。
研究で使われた「BASドライブ(行動を起こそうとする心の推進力)」という指標は、「何かに積極的に取り組みたい」「目標に向かって頑張りたい」という気持ちの強さを示しています。
例えばスポーツ選手が試合前に自分に向かって「よし、絶対に勝つぞ!」と声を出して気合を入れるとき、実は同じような心のメカニズムが働いています。
今回の実験結果は、悪態をつくことが心の中の「やる気スイッチ」を一時的に強く押し、前向きな気持ちや強い意欲を生み出すことを示しています。
これは単に気分が盛り上がるだけでなく、実際に行動するためのエネルギーや積極性が具体的に高まることを科学的に証明した重要な結果です。
一方、「悪態をつくことで自分自身のミスや失敗への注意力が低下し、結果的に行動しやすくなる」という予想は否定されたことになります。
つまり、悪態で握力が上がるのは「ミスを気にしなくなるから」ではなく、それとは別の仕組みが働いている可能性が高いということです。
例えば、「気持ちが高ぶって集中力が増す」「感情が盛り上がって一時的に体が緊張しやすくなる」など、別の理由が考えられますが、この詳しい仕組みについては今回の研究だけではまだ明確にはなっていません。
もうひとつ、今回の研究で残された重要な課題は、この「悪態による効果」がどのくらい長く続くのか、また、どんな場面でも同じように効果が出るのかという点です。
今回の実験では、悪態の後すぐに握力を測りましたが、時間が経った後でも同じように効果が持続するのかはまだ分かっていません。
研究チームは、実験で使った課題の時間が長すぎて効果が薄れた可能性があるとして、「より短い時間で脳の反応を測定すれば違う結果が得られるかもしれない」と指摘しています。
今後、さらに詳しい実験を重ねて、効果の持続時間や、スポーツや勉強など他のさまざまな場面での効果を検証することが必要になるでしょう。
この研究は、「悪態=百害あって一利なし」と考えがちな私たちに新しい視点を与えています。
ネガティブに見える言葉でも、人の力や感情を動かすポジティブな一面を持つ場合があるのです。
言い換えれば、言葉は単なる音や意味以上の力を持ち、使い方次第で一瞬だけ“心のエネルギー増幅剤”になり得るのです。
まさに「悪態も使いよう」と言えるでしょう。
もし今後、ここぞという勝負どころに立ったとき、(他人に迷惑をかけない範囲で)短時間だけ悪態をついて気合を入れてみるのも面白いかもしれません。
あぁ…クソッ――!