慢性痛に朗報「あなた専用の治療法」が見える時代へ

長い間、痛みを専門とする医師や研究者は、なぜ慢性痛が治りにくいのかを考えてきました。
今回の研究は、そんな慢性痛の治療に対して、新たな可能性を示した重要な第一歩だと考えられます。
今回の研究の最大のポイントは、「個別最適化」と「必要に応じた自動制御」という二つのキーワードにあります。
これまで脳に電気刺激を与えて痛みを和らげる治療は、すべての患者さんに同じように、決まった場所に刺激を流し続けることが一般的でした。
これは例えるなら、誰にでも同じ内容の薬を渡して飲ませるような、一律な方法です。
しかし、この研究では、一人ひとり異なる脳の仕組みに丁寧に合わせて刺激する場所やタイミングを選び、その患者さんが痛みを感じた時にだけ刺激するという、いわば患者さんと「個別に対話する」ような治療を実現しました。
研究チームがこの「個別最適化」を重視した理由は、痛みの感じ方や、脳のどこを刺激すると痛みが軽くなるかが、人によって大きく異なることが分かったからです。
また、「必要に応じた自動制御」を取り入れたのは、常に刺激を与え続ける方法だと、脳が刺激に慣れてしまって次第に反応しにくくなる可能性があるからです。
これは例えば、同じ味の飴を食べ続けていると、だんだん味を感じにくくなる現象に似ています。
必要な時だけ刺激する方法なら、脳が刺激に対して新鮮な反応を保ちやすく、効果が長続きしやすいのではないかと期待されています。
実際に研究チームも、この方法であれば脳が刺激に慣れてしまうのを防げる可能性を指摘しています。
ただし、今回の研究はまだ最初の小さな一歩に過ぎず、すぐに誰もが使える治療法になるわけではありません。
研究に参加した患者さんはわずか5名という少人数であり、患者さんの抱えている痛みのタイプも限られていました。
つまり、この結果が全ての慢性痛にそのまま当てはまるとは限りません。
また、今回の研究で使われた「痛みを感じた時だけ刺激する」という方法が、本当に治療効果を高める重要なポイントだったのか、それとも「一定時間おきの刺激」や「患者自身が刺激を切り替える方法」でも似た効果が得られるのか、といったことも、今後さらに詳しい研究が必要です。
それでも、この研究の意義はとても大きいと言えるでしょう。
特に、「患者さんごとの脳の状態に合わせて痛みを検知し、その瞬間だけ刺激を行う」という閉ループ(自動制御型)刺激の考え方は、慢性痛だけでなく、うつ病やパーキンソン病など、他の病気に対しても期待されている新しい治療法のアイデアです。
また、今回見つかった「尾状核」や「淡蒼球内節(GPi)」という新しい刺激ポイントは、慢性痛をコントロールする脳の仕組みを解明する上でも重要な発見です。
従来の治療法ではあまり注目されなかったこれらの脳領域が、痛みを和らげる効果があることがはっきり示されたことで、今後の研究が一気に進む可能性があります。
さらに、今回の研究では、「二重盲検試験」という非常に厳密な方法を使って、本当に刺激の効果があるのかを科学的に証明しました。
この方法によって、患者さん自身も治療者も刺激が本物か偽物かを知らずに結果を評価するため、プラシーボ(思い込み効果)ではなく、本当の効果だということが強く証明されたのです。
慢性痛というのは、他人にはなかなか理解されない、つらく長い戦いです。
そんな痛みと闘っている患者さんに対し、この研究は「あなただけの脳の痛みスイッチを探し、必要な時だけオフにする」という、個別の治療方法を提案しています。
もちろん、まだ解決すべき課題は残っていますが、この成果は患者さんにとって、未来への希望の光をもたらしたと言えるでしょう。
今後の脳科学と医療技術の発展により、痛みに苦しむ多くの人が、個々の脳の特性にぴったり合った治療を受けられる日が近づいているのかもしれません。
いずれは群派頭痛などの難病の治療法にも応用されるかも?
スポーツ選手のイップスや後遺症への治療にも適用できるようになれば、活躍できる人や年齢も上がっていくかも知れない。あくまで実験に過ぎないとはぃえ、夢が広がりますね