AIとの会話が私たちの創造性を薄めるかもしれない理由
この研究から浮かび上がったのは、ChatGPTの会話は安定感がある反面、人間らしい創造的なゆらぎが薄いことが示された点です。
一見すると、ChatGPTのようなAIがいつでも丁寧で一貫した対応をしてくれるのは長所のように思えます。
失礼なことを言ったりトンチンカンな返事をしたりしないので、安心して使えるでしょう。
しかし、まさにその予測可能で無難すぎる応答こそが、人間の会話らしさを損なっていると研究者たちは指摘します。
実際の人間は、同じフレーズの繰り返しを避けたり、ありきたりな表現には飽き飽きして工夫を凝らしたりします。
誰しも「退屈な人だ」と思われたくないものですから、多少奇をてらってでも自分なりの話し方を追求するものです。
言葉遣いや話のテンポ、冗談のセンスに至るまで、「自分はこう話す」というスタイルを無意識に形作っているのが人間の会話です。
もし私たちがAIの話し方に慣れすぎてしまったらどうなるでしょうか。
AIは常に感じが良く丁寧ですが、その代わり表現は平均化され個性が薄いものです。日々AIと対話し、それに違和感を抱かなくなっていくと、知らず知らずのうちに私たち自身もその話し方に引っ張られてしまうかもしれません。
たとえば友人との会話でも、AIに話すような丁寧で当たり障りのないフレーズばかりが出てくるようになったら――それは「あなたらしい話し方」が薄れているサインかもしれません。
研究チームは提供されたプレスリリースの中で、「長期的に見ると人間がAIの話し方を無意識に真似ることで、個人の創造性や表現の個性が徐々に失われる可能性がある」と懸念を示しています。
会話とは単に情報を伝える手段ではなく、お互いの言葉のキャッチボールの中で意味や社会的なアイデンティティを共同創造していく営みです。
もし会話から創造性が失われ、みなが同じようなことしか言わなくなってしまったら、それは人間らしさの喪失に繋がりかねません。
もっとも今回の研究は、人間の会話とAI生成の会話を比較した観察研究であり、これだけで「AIのせいで人間の創造性が失われる」と断定することはできません。
しかし、AIがもたらしうる影響を事前に知っておくことで、私たちは意識的に自分らしい表現を大事にし続けることができるでしょう。
便利なAI時代だからこそ、「決まり文句」に埋もれない豊かな会話を守る努力が求められているのです。