火星で酸素を作る立役者になれる?

クロの本領が発揮されたのは、実際の宇宙実験でした。
ESA(欧州宇宙機関)が主導した国際宇宙ステーション(ISS)での「BIOMEX」「BOSS」などの実験では、クロは乾燥状態で約1年半、宇宙の放射線や真空、火星に近い強い紫外線に晒されました。
その結果、クロは岩や砂(レゴリス)など薄いシェルターに守られれば、高エネルギーの紫外線さえも跳ね返し、多くの細胞が生き残りました。
さらに驚くべきは、実験後に地球に戻して水を与えると、クロの細胞はDNAの損傷を自分で修復し、元のように活動を再開したことです。
しかも次の世代にも突然変異など悪影響は見られませんでした。
また、クロは月や火星の模擬土壌でも成長でき、光合成によって「土壌に含まれるミネラルと太陽光」から酸素を生み出すことも確認されています。
これは火星や月で“現地の資源だけ”を使って、酸素や食料、バイオマスを作る「現地資源利用」の大本命技術です。
さらにクロは、火星土壌に多い有害な過塩素酸塩にも耐性を持ち、DNA修復遺伝子を活性化することで、細胞を守ることもできます。
赤外線で光合成できる特殊な株も見つかっており、赤外線しか届かない系外惑星や氷衛星での生命存在のモデルとしても注目されています。
現在、クロを使った宇宙計画が進行中で、乾燥状態のクロを宇宙に送り、必要なときに水を与えて“目覚めさせる”ことで、宇宙基地の「酸素工場」や「バイオマス工場」として活用する研究が進められています。
クロは、これまで人類が想像してきた「生きられそうにない場所」でも、したたかに生き抜き、再びよみがえることができる存在です。
もしも将来、人類が火星や月、さらには系外惑星に進出する時代が訪れたら、そこにはクロが環境づくりの立役者として働いているかもしれません。