「宇宙の怪物」はなぜこんなに早く生まれたのか?
観測の結果、銀河CAPERS-LRD-z9の中心には、太陽の3億倍もの重さをもつ超巨大ブラックホールが隠れていました。
このブラックホールは、銀河に存在するすべての星の質量の約半分に匹敵するほどの大きさです。
そして、そのブラックホールを取り巻くガスや塵が、まるで渦を巻くように落ち込み、膨大な光とエネルギーを生み出していました。
ブラックホール自体は光を放ちませんが、まわりの物質が引き込まれ加熱されることで、激しい光を放ちます。
その光は遠ざかるガスの影響で赤く引き伸ばされ、近づくガスの影響で青く圧縮される――これが分光観測によって「ブラックホールが存在する証拠」として捉えられたのです。
しかも、このブラックホールを取り囲む“分厚いガス雲”が、銀河全体を赤く染め上げていることも明らかになりました。
この現象は他の遠方銀河でも確認されており、CAPERS-LRD-z9も同じような特徴を持つことが分かっています。
しかし、ここでまた大きな謎が浮かび上がります。
なぜ宇宙の歴史が始まったばかりの時代に、これほど巨大なブラックホールがすでに存在できたのでしょうか?
私たちが知る多くのブラックホールは、時間をかけてゆっくりと成長していきます。
星が寿命を終えて爆発し、その残骸が少しずつ質量を増やしながらブラックホールになる――それが一般的なイメージです。
ところが、CAPERS-LRD-z9のブラックホールは、たった数億年で太陽の3億倍に成長していたのです。
この事実は「初期宇宙のブラックホールは、予想よりはるかに速く成長した」もしくは「最初から非常に大きな質量を持って生まれた」という新たな可能性を示しています。
今後、JWSTによるさらなる観測が進めば、ブラックホール誕生のシナリオが大きく塗り替えられるかもしれません。