メトホルミンは脳にも効くのか?

糖尿病は、血糖値(血液中の糖分の濃度)が正常よりも高くなってしまう病気です。
その中でも特に多い2型糖尿病では、体が血糖を下げるホルモンであるインスリンをうまく使えなくなったり、インスリンが十分に作られなくなったりして血糖値が上がります。
血糖が高いままだと、体のさまざまな部分に深刻な影響を与えるため、多くの患者さんは血糖を下げる薬を飲む必要があります。
そんな2型糖尿病の薬のなかで、最も古くから使われている薬が「メトホルミン」です。
この薬は60年以上も前に登場して以来、値段の安さと安全性の高さから、今でも世界中で第一選択薬(最初に処方される薬)として広く使われています。
しかし実は、メトホルミンが「なぜ効くのか」というはっきりした仕組みは、長い研究の歴史の中でも完全には解き明かされていません。
これまでの研究では、メトホルミンは主に肝臓に働きかけて「糖新生(体内で糖を作る仕組み)」を抑えることで血糖を下げると考えられてきました。
また最近では、腸の中にいる細菌のバランスを整えたり、腸から分泌される消化管ホルモンの量を変化させたりすることで血糖値を下げる可能性も指摘されています。
ただ、こうした説明だけでは薬が「なぜ低用量でもよく効くのか」ということまではっきりと説明しきれていませんでした。
では、メトホルミンが作用する場所として、「脳」を考えてみるのはどうでしょうか。
あまり知られていませんが、脳は私たちの体の中で「エネルギー管理の司令塔」とも言える重要な役割を持っています。
たとえば、私たちがご飯を食べた後で血糖値が上がったり、お腹が空いて血糖値が下がったりすると、脳はその変化を敏感にキャッチします。
そして、肝臓に指令を出して血液中に糖分を放出させたり、逆に糖分を出さないようにしたりするほか、食欲や体全体の代謝の調整にも深く関わっています。
ところが、メトホルミンという薬がこうした脳の働きにも影響を与えるのかどうかは、これまであまり詳しく研究されていませんでした。
そこで今回、研究チームはメトホルミンと脳の関係を調べる調査を行うことにしました。