宇宙に現れた巨大「電波円」は何が作ったのか?

宇宙には私たちがまだ十分に理解していない、不思議な天体が存在しています。
その一つが「奇妙な電波円(ORC:Odd Radio Circle)」という現象です。
このORCとは、銀河のまわりに突然現れる、巨大なリング状の構造をした電波の放射源のことを指します。
「電波」と聞くと私たちの日常生活ではラジオ放送をイメージしがちですが、実は宇宙に存在する星や銀河、ブラックホールなども強い電波を放っています。
そしてその電波の放射が円形に広がり、まるで宇宙空間に浮かぶ「電波の輪っか」のように見えるものがORCです。
このORCの多くは非常に巨大で、サイズは100〜500キロパーセクにも達します。
キロパーセク(kpc)という単位は天文学で銀河のサイズを測る時に使われ、1キロパーセクは約3,260光年(光が1年で進む距離)に相当します。
つまりORCは、数十万~数百万光年という途方もない大きさの輪を作っているのです。
私たちの天の川銀河の直径が10万光年であることを考えると、その巨大さがわかります。
しかし、この輪は普通の望遠鏡で見える光(可視光)やX線ではほとんど目立ちません。
電波望遠鏡と呼ばれる特別な観測機器でだけはっきりと見ることができるため、長らくその存在に気づかれずにいました。
実際、この奇妙な電波円が本格的に注目され始めたのはここ数年のことです。
2019年頃から報告が増え始めましたが、なぜ銀河のまわりにこのような巨大なリングが形成されるのか、その詳しい仕組みはまだ謎に包まれています。
しかし、多くの天文学者はそこに非常に重要な宇宙の新しい現象が隠れていると考えており、研究は急激に活発化しています。
では、奇妙な電波円(ORC)の原因はいったい何なのでしょうか?
これについてはいくつかの興味深い仮説が提案されています。
例えば、一つの説は「銀河同士やブラックホール同士が衝突する時に生じる『衝撃波』」というものです。
銀河やブラックホール同士がぶつかると、その巨大なエネルギーが宇宙規模の爆発を引き起こし、その衝撃波が周囲に広がって輪のような電波の残骸を作るのではないか、というシナリオです。
別の説として注目されているのは「スーパーワインド(超銀河風)」説です。
スーパーワインドとは、銀河の中心で大量の星が一斉に誕生したり、中心の巨大ブラックホールが活発化したりした時に、その強力なエネルギーが銀河全体のガスを外側に向かって吹き飛ばす現象を言います。
火山が噴火すると熱風や灰が勢いよく噴き出すのと似ています。
銀河で起きるスーパーワインドは、この火山の噴火口から吹き出す熱風のようなもので、巨大なエネルギーでガスやプラズマを銀河の外へと押し出します。
この強い銀河風が、銀河の外側で活動を終えて漂っていたガス(過去の星やブラックホール活動の名残)にぶつかると、その衝撃でガスが再び加速されて電波として光り出し、結果としてリング状の構造が浮かび上がる、というわけです。
これら二つの説はそれぞれ特徴が異なります。
衝撃波説は「宇宙規模の一度きりの大爆発でリングが作られる」というものです。
一方でスーパーワインド説は「銀河の中心から長期間にわたって吹き続ける巨大な風が、過去に放出されたガスの名残をなぞるようにしてリング状に光らせる」というイメージです。
しかし、どちらの説にもまだ十分な証拠が揃っておらず、研究が進められている真っ最中です。
いずれにせよ、ORCはその数が非常に少なく、また電波が非常に弱いため、従来の天文学ではあまり研究が進まず、長い間見過ごされてきた現象でした。
現在では人工知能(AI)を用いて宇宙に隠された様々な構造を探す研究が盛んに行われていますが、ORCのようにそもそも発見例が少なく、複雑で微かな電波の構造はAIが見つけることが難しいという課題があります。
そのため研究者たちは、あえて昔ながらの方法をもう一度使ってみようと考えたのです。