真逆のはずの思想、なぜ脳活動が一緒なのか?

今回の研究で、アメリカのブラウン大学の研究チームは、政治的に極端な思想を持つ人の脳の中で「何が起きているのか」を確かめるために、あるユニークな実験を行いました。
研究チームはまず、政治的に極端な考えを持つと自分で認識している44名を集めました。
ただし、実際に脳のデータ解析で用いられたのは最終的に41名でした。
参加者たちはMRI(磁気共鳴画像法:脳内の血液の流れを可視化する装置)を使って、自分たちの脳活動を測定されます。
このときに見せられた映像は、2016年のアメリカ副大統領候補同士の討論の一部です。
この討論はとても感情的で過激な言葉が飛び交っており、参加者の脳がどう反応するかを見るにはうってつけだったというわけですね。
また、脳だけでなく、皮膚電気反応(SCR:手のひらの汗の量で興奮度合いを調べる方法)も同時に測定されました。
つまり、言葉を聞いたときの心の動きを、脳と体の両方のレベルで捉えようとしたのです。
実験の最初の結果は、ある意味で予想通りでした。
政治的に刺激の強い内容では、思想が極端な人の脳の一部が特に強く反応していました。
具体的には、
不安や恐怖を感じる脳の中枢(扁桃体)
危険を感じたときの本能的な防御反応を司る部分(中脳水道周囲灰白質:PAG)
他人の意図や感情を理解する脳の部位(後部上側頭溝:pSTS)
などの感情や社会的な状況判断を担当する領域が非常に強く活動しました。
言い換えれば、極端な考え方を持つ人ほど、こうした脳の「感情のスイッチ」がより敏感に反応しやすい傾向があったということです。
しかし、本当に注目すべき驚きの結果はここからでした。
「極左」と「極右」という真逆のイデオロギーを持つ人同士を比べると、互いの脳活動がかなり似てくるという現象が見られたのです。
(※最終的に41人のデータが使われ、820通りの“ペア”(41×40÷2)を作って解析)
両者は思想が正反対なので、普通に考えると全く違う反応を示しそうです。
ところが実際には、「他人の考えを理解したり共感したりするのに重要」とされる脳の部位(頭頂側頭接合部TPJや前述のpSTS)が、両者で非常に似た動きを見せました。
さらに面白いのは、この「脳のシンクロ現象」が、特に過激な言葉を聞いたときに頭頂側頭接合部TPJで強まる傾向が見られたことです。
言葉が攻撃的になり、感情を刺激するほど、極端な考えの人たちの脳がさらに「同調」してしまうわけですね。
また、このシンクロ効果は脳だけでなく、「手汗の量が同じタイミングで増える」という身体レベルでも確認されました。
逆に、手汗の反応がズレていると、脳の同期も弱まるという結果でした。
つまり、「体と脳」がセットで反応するほど、極端な人たちは思想に関係なく、同じリズムで世界を感じてしまうということが見えてきたのです。
研究者らは、この現象が「感情の共有」によって引き起こされている可能性があると考えています。
極端な考えの人ほど、同じ刺激で同じように感情が高まり、その結果、脳まで同じパターンで反応してしまうというわけです。
言葉が感情の引き金を引き、脳と体が連動して「世界を同じように感じる」ようになるという現象──まさに言葉の火力で脳が寄り添ってしまう不思議なメカニズムだと考えられます。