未来のがん治療に身近なワクチンが加わる可能性

今回の発見の本質を一言で表すなら、「誰もが知っている新型コロナワクチンが、意外にもがん治療を後押しする可能性を秘めている」ということになります。
ただの感染症予防のために作られたはずの一本のワクチンが、がん患者さんの生存期間にここまではっきりとした差をもたらす可能性があるとすれば、それは患者さんにとってかけがえのない命の時間を生み出す、非常に価値ある朗報となるでしょう。
しかも、この研究で使われた新型コロナのmRNAワクチンは、すでに世界中で何十億回も接種されており、安全性や副作用についてのデータが多く蓄積されています。
つまり、新しい薬を一から開発するのとは違い、すでに手元にある道具をうまく再利用して治療効果を高められる可能性があるのです。
研究チーム自身も、この点を非常に重要だと考えており、「幅広い患者さんに使える汎用的な免疫強化剤(免疫ブースター)」として、コロナワクチンの可能性に大きな期待を寄せています。
現在、研究チームはさらにこの可能性を確かめるために、「第III相臨床試験」という大規模な実験的研究(最終的な効果を人間で確認する試験)を準備しています。
もしこの試験で効果がはっきりと証明されれば、免疫療法を受ける多くの患者さんにとって、新型コロナワクチンを治療プロトコル(標準的に使われる治療計画)に取り入れる道が現実味を帯びてくるでしょう。
本来なら治療効果が期待できなかった免疫療法を、身近にあるワクチンという手軽な方法でより効果的にできるとすれば、医療分野における大きな前進と言えるでしょう。
もしかしたら近い将来、新型コロナワクチンはただの感染症予防薬という本来の役割を超えて、「がんと戦うための免疫を目覚めさせる」新しい役割を与えられるかもしれません。